「くふふっ、今日も兄チャマをチェキできマシタ〜!!」

四葉は数枚の写真を部屋に散らばしながら、にこにこと笑う。

ベットの上にはこのうえなく古い形のポラロイドカメラ。

機能も全然充実していないカメラだったがそれでも今でも大切に使っている。

「………グラン・マ、元気にしてマスでしょうか……」

四葉は窓の外から見える星々を見つめながら、呟く。

そう、このカメラはイギリスにいる四葉の祖母からもらった大切なカメラだった。

たとえ少し型が古かろうが何だろうが決して手放したくないもの。

四葉は沢山のカメラを持っているがどんな新品で機能が充実したカメラよりもこれが大好きだった。

「……最初は四葉、このカメラが重すぎて持てなかったんですよね……」

小さい頃―祖母から誕生日プレゼントに貰った良いがあまりの大きさに

力のない四葉はすぐに落としてしまっていた。

そのたびに四葉の母親は困った顔をしていたが祖母は微笑みながら見つめていて。

…その瞳がとても優しかった事を四葉は覚えている。

そしてポラロイドカメラをくれた祖母の気持ちも理解している。

四葉はベットの上にあったカメラを手に持ち頬を寄せながら優しく撫でる。

「……四葉が探偵を目指しているって言ったら…くれマシタよね、このカメラ……」

『こうして写真を撮っていったら洞察力が身につくんじゃないかしら?』

そう言ってくれた日の頃を瞼を閉じれば今でも思い出せる。

…優しい祖母の笑みと、とても重みのあるカメラ。

そして自分の夢を「素敵ね」と言って応援してくれた祖母。……どれも大切な思い出の一つだ。

「……グラン・マ、四葉やっとこのカメラを使えるようになったんですよ……?」

空に浮かぶ月を見上げながら、誰にともなく呟く。

今は遠くはなれた地にいる祖母へ、言葉を届けて。

月にそう祈りながら、じっと窓を見つめていると……

「………あっ、いけないです!!感傷に浸ってる場合ではありまセンでした!!」

思わず作業する手が止まっていた四葉は自分に渇を入れ再び作業に取りかかった。

作業とは、今までとった写真を整頓するものだった。

かれこれ日本に来てみてから兄をチェキする事しか考えていなかったのだが

せっかく撮った写真をその辺に置いていたらいつのまにかなくなっているというのは困る。

なので四葉は今日、日本に来て初めてアルバムに写真をまとめようかと思ったのだった。

というわけで作業に取りかかっているのだが写真を見るとついつい手を止めてしまう。

「あ、懐かしいデス〜。これは確か四葉が初めて兄チャマをチェキした写真ね」

今まで撮った写真を見てその時何が起こったのか、

その時自分はどうしたのかだとかを思い出しながら作業をしていたのだった。

そうして写真を見てすごしているうちに1時間で終わるアルバム整理も

ものすごく長い時間やってしまっていたのだが…

この際時間をかけてやろう、と思い四葉はうっとりと写真の兄に見惚れていた。

「………兄チャマ」

写真の中のぼやけた兄を見ていると自然と顔が赤くなる。

兄を初めて撮った写真はものすごくピンボケしていた。

まだ写真を撮ることになれていなくて、当時はせっかく盗撮したのに

ピンボケしていてとても落ち込んでしまっていた時があった。

だが最近の写真を見るとピンボケは昔よりも減っているような気がする。

……もしかして腕が上がったのだろうか、なんて思ってしまったのだが……

「…四葉、昔誰かに写真撮るの下手といわれたような気がするデス……」

そういえば、と思い出し四葉は「あぅ……」としょんぼりしてしまう。

カメラを持ち歩いているにも関わらず四葉は物凄く写真撮影が下手だった。

例えば夜なのにライトをつけるのを忘れていたりとか、

写真を撮る直前にちょっと動いてしまいピンボケしてしまうなど色々だ。

浮気調査などカメラは必需品なのにどうしてこうも失敗ばっかりしてしまうのだろうか。

「………ま、まぁ…何とかなるデスよね……?」

四葉は2、3年もしたら上達しているだろう、と悠長に構えることにした。

そしていい加減見とれているのも何なので四葉は再び作業に取りかかった。

ピンボケしすぎている写真は捨ててもいいのだがどうしても捨てられそうにもなかった。

「これも、兄チャマだから捨てれないデス〜!!」

そう言いながらぼやけた写真をアルバムに仕舞い、「くふふっ」と四葉は笑った。

1冊のアルバムすべれが兄の写真によって埋め尽くされていたのだ。

四葉にとってこれほどうれしい事はない。

「兄チャマ専用アルバムその1……っと」

アルバムの表紙にサインペンでそう書くとなんだか胸がくすぐったくなった。

「……もっといっぱいいっぱい兄チャマをチェキしたいな……v」

アルバムが10冊以上にもおよぶぐらい沢山、兄の事を知りたい。

……ずっと会えなかった間を埋めるぐらい、チェキしたい。

そんな事を思いながら写真を整理しているとふととある写真を2、3枚手にする。

「…………あれ?」

2、3枚の写真をじっと見るとその写真たちはすべて兄の姿がくっきりと映っていた。

これだけ見ると共通点は写真の撮影に成功した写真という事しか思い浮かばない。

しかし四葉にはこの盗撮成功写真がすべてあのポラロイドカメラで撮ったものだというのが分かった。

…他のと比べて少し質が悪いのだ。あのカメラだという事が直ぐ分かった。

「……もしかして、グラン・マのパワーでしょうか……?」

ここまで盗撮に成功しているカメラなど珍しい。ピンボケが一切なかったからだ。

…四葉は本当に祖母の力だと思った。

祖母に兄の事を何回も話した記憶もあるし、何より祖母が言ってくれたこの一言が忘れられない。

『このカメラで素敵なお兄様を撮ってあげたらいいんじゃないかしら?』

そういって頭を撫でてくれた祖母。

優しく微笑んだその表情を見て四葉は元気よく頷いた記憶がある。

「ちゃんとこのカメラでチェキしてるデスよ、グラン・マ……」

ベットの上のカメラに向かって四葉は明るく笑う。

カメラを指でつん、と押しながら脳裏に祖母の表情が鮮やかに蘇る。

………祖母には沢山素敵な事を教えてもらった。

色んなものを貰ったし、色んな事柄も教えてもらった。

祖母がいなければ今の四葉はいなかっただろうといえるぐらい、沢山の事を知った。

「……ありがとデス、グラン・マ……」

感謝の言葉を並べてもいいきれないほど、大好きな祖母。

イギリスにいた頃を思い出しながら、四葉はゆっくりとシャッターを押した……。

後書き