遠くが光った。
「きゃっ……!!」
遅れて聞こえる、雷の音。
怖くて、可憐は布団を深く被りながら雷が過ぎていくのを待つ。
しばらく経って静かになると再び顔を出すのだが
そういう時に限って雷は光るもので。
被っては顔を出し、隠しては顔を出しを繰り返していた。
(怖い……!!)
可憐は一人、明かりのついた部屋で怯えながら
雷が過ぎていくのを待っていた。
小さい頃から雷は苦手だった。
地獄の底から這い上がってきたようなあの音と、
ピカ、と光りだす空が嫌だ。
もっとも地獄なんて行った事がないから想像に過ぎないが。
(早く過ぎてって……!!)
雷が早く去るように祈りながら、
可憐はベットの中で瞼をぎゅ、と閉じる。
こういう日に限って両親がいないのが悔やまれる。
小さな子みたいで恥ずかしい、と思いながらも
母親の元へ行き抱かれながら次第に安心していく、そんな日がよくあった。
だが今日は親戚の家へ、と出て行ってしまっている。
可憐は家で一人、怯えながら夜を過ごすしかないのだ。
(誰か、助けて……!!)
今の現実を拒否するように瞼をきつく閉じながら、誰かに救いを求める。
そうしてふと、今一番隣にいて欲しい人物を思い浮かべる。
その人は優しくて頼りになって、可憐が世界中の誰よりも大好きな人。
可憐のスーパーマンこと、お兄ちゃんである。
困った時はいつも助けてくれて、泣いていたら抱きしめてくれて、
優しく撫でて、素敵な言葉をくれる、そんなお兄ちゃん。
可憐はそんなお兄ちゃんが大好きだった。
(お兄ちゃん…助けて!!)
そう思ったら行動は早かった。
可憐は雷に怯えながらも素早くパソコンの前にいき、
パソコンを立ち上げる。
起動時間すら待ち遠しくそわそわしながら、
立ち上がったパソコンを見つめる。
そうして完全に起動させるとすぐさまメールを開き、
アドレス帳からお兄ちゃんのメールアドレスを送信先にすると、
本文を急いで書き上げようと指を動かした。
―――――ピカッ
「きゃあああああっ!!」
布団に潜ってた時より大きな音に可憐は
いてもたってもいられなくなり、すぐさまベットへと戻った。
体を小刻みに震えさせながら溢れた涙をぬぐいながら嗚咽を漏らす。
「ううっ………お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
もうこれ以上泣かないようにとお兄ちゃんの優しい笑顔を思い出し
一人涙を堪える可憐。
こんな姿見られたらお兄ちゃんに笑われちゃう、と自分自身を励まし
一刻も早く雲が通りすぎるのを待った……
ふと目を開いたら起動したままのパソコンが目にうつった。
「………あ、れ?」
可憐は目をこすりながらパソコンの画面を見つめる。
どうやらいつのまにか疲れて眠っていたようだ。
遠くからは雷の音がいまだやんでおらず可憐は不安で仕方がなかったが
さっきまでとは違いそんなに音が近くなかったのでおそるおそる、
パソコンに向かい電源を落とす。
そういえばさっきのメールはお兄ちゃんに届いたのだろうか。
メールを送ろうとした瞬間、雷が近くにきてベットに潜り込んだのは覚えている。
なので送ったかどうか覚えていない。
「…………でも」
きっとお兄ちゃんなら来てくれる。
優しい優しいお兄ちゃんならきっと――――
そんな事を思いながら再びベットに潜り込むと、
階段を静かに上がってくる足跡が聞こえた。
―――ほら、やっぱり。
可憐は布団を被ったまま思わずにやけてしまいそうな顔を抑えた。
次の瞬間訪れるであろうお兄ちゃんの姿を思い浮かべながら―――
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