sweet happiness

コンコン。
「おーい、チビ、いるかー?」
扉の外からドアを叩く音を聞き、イカルは目を覚ました。
まだ眠い瞼をこすりながら扉をじっと見つめる。
声から察するにおそらく扉の先の人物はハッカンだろう。
(何だよこんな朝っぱらから……)
イカルは面倒臭そうに息を吐くとそのまま蔀にごろりと横になった。
扉を開ける気にもなれなくて黙って寝すごす事にしたらしい。
ふわぁ……と大きな欠伸が出る。
(おやすみ〜……)
イカルは瞼を閉じ寝る体制に入る。
ハッカンには悪いが自分は物凄く眠い。
もっと遅い時間に来てくれよ……と心の中で呟いた時。
ガチャ………。
「あ、やっぱり部屋にいやがった」
扉が開く音とハッカンの声が聞こえた。
イカルはびく、と微かに体が反応するがすぐさま寝た振りをする。
「くー………すー……」
(シカトしたって分かったらハッカンの奴色々と文句言ってくるからな〜……
寝たふり、寝たふり…っと。)
そう心の中で呟きながら目をぎゅっと瞑る。
おそらくハッカンが自分を起こすために何かしでかすだろうな、と思いながら。
反応しなければきっとハッカン驚くぞ…と心の中でにやり、と笑みを浮かべた時。
「……寝てるんならしゃーねーか………折角いいモン持ってきてやったのになぁ」
(いいモン?)
イカルの眉がぴく、と動く。
いいモンとは一体何なのだろう。
今すぐ起き上がりハッカンに「いいモンって何!?」と聞きたいが。
(おれは寝てる事になってるしなー……)
もしかしたら狸寝入りしている事がバレて騙そうとしているという可能性も捨てきれない。
色々な考えが頭の中でぐるぐる回りながらイカルは云々と悩みだした。
「あーあ……すげーうめーって聞いたんだけどなー…」
「…………」
思わず喉をごくり、と鳴らしてしまう。
(う、うめーって事は……)
つまり食べ物関係、という事だ。
イカルは再び起き上がろうかどうか悩み始めた。
美味いものの想像をして思わずよだれが出そうになる。
それを押えつつもハッカンにどう対応したらいいか悩む。
起きるべきなのか、どうなのか。
(うーん……うーん……)
悶々と考えていた、その時。
「……ま、寝てるならしゃーねーか。じゃ、オレ1人で……」
そう呟きながら足音が遠くなった刹那。
「ちょ、ちょっと待ったー!!」
イカルは反射的に起き上がってしまった。
騙されているのかもしれないと思ったが、もし本当だとしたら物凄く勿体無い。
ハッカンに独り占めされるのはムカつく、と思い咄嗟に叫んでしまったのだが。
「……っく……くっく……」
ハッカンは必死に笑みを押えようと声を押し殺していた。
不思議そうにハッカンを見やったがやがてはっと気が付く。
ハッカンが笑っているという事はつまり。
「………!!だ、騙したな〜!!」
ようやっとハッカンに騙された事に気が付いた。
ハッカンはイカルの方に振り向き、目に涙を浮かべながら可笑しそうに笑い続けた。
「い、いや……騙すつもりはなかったんだけどよ……っくくっ」
頬を膨らませて睨むイカルを見てハッカンは再び笑い出した。
(む、むかつく〜……)
ハッカンの態度にイカルは顔を真っ赤にして激怒した。
むかついたのでイカルは蔀にあった枕をハッカンに投げつける。
枕はぼふっと良い音を立ててハッカンの腹部に当たった。
「!!ってーなー……」
ハッカンより小さなイカルだが思いっきり力を込められて攻撃されたら当然痛い。
イカルは「ふん」を鼻を鳴らしながら不機嫌そうにそっぽを向いた。
「用がないんなら帰れよなー。おれやることたくさんあるんだから」
こんな事を言っているが実際にやる事なんかなかったりする。
イカルの次の任務は来週の頭にしかない。
よって暇なわけだがハッカンを追い出す口実として言っているだけだ。
ハッカンは「あーそうかよ」と不機嫌そうに呟くと残念そうにため息を吐いた。
「せっかく本当にうめーもん持って来てやったのにな……」
「……え?」
イカルは驚いて目を大きく見開いた。
そう呟いたハッカンを見ると今まで気付かなかったのだが
後ろに何か隠し持っていた事が分かる。
ハッカンはそれを「ほれ、うめーもん」と袋を揺らしながら差し出した。
遠くからでは判別できないので、イカルは蔀から出て差し出された袋に近付いた。
水色の布素材の袋に赤いリボンがついた、何が入ってるのか見えない包み。
先ほどハッカンが袋を揺らしたとき若干音がしたように聞こえたが。
(……何入ってんだよ、これ………)
音だけでは判別がつかず、イカルは悩んだ。
もしかしたらまた自分を騙そうと考えて食えないものを入れてるのかもしれない。
もしくは食べ物だがとてもまずいものかもしれない。
ハッカンを信じていいのやらどうやら考え、イカルはうーん…と唸りながら袋に触れた。
そして触り心地を確かめる。
何か丸くて固いものが入ってるような感触があった。
それが一体何なのかは分からないが。
(……本物にうめーもんなのか?)
訝しげに袋を眺めたり触れたりするイカルを見てハッカンは「あのなぁ…」と口を開いた。
「オレが嘘つくような奴に見えるか?プレゼントっつたらプレゼントなんだよ」
「ぷれぜんと……」
嘘はつかないけど騙すじゃん、と心の中で呟いたがあえて口には出さなかった。
今それを言うと貰えないような気がしたのも理由だが。
(……ぷれぜんと、かぁ……)
もう一つの理由はハッカンから「ぷれぜんと」を貰えるのが嬉しかったからだ。
好きな人からプレゼントを貰えるというのがとても嬉しい。
イカルは意を決し、袋を手にとった。
そして自分の方へと引き寄せる。
「………開けてもいいか?」
「おう、いつでもいーぜ」
ハッカンに確認を取るとイカルはわくわくした面持ちで巻かれていたリボンを解いていった。
そうして袋の中身をじっと見るとそこには飴玉が数粒入っていた。
その飴玉は赤だったり青だったりとさまざまな色をしていた。
所々色が混ざり合っていて綺麗だ。
ハッカンの言うとおり、とても美味しそうな飴だが。
「………」
だがしかし、イカルにはどうしても疑問に思う事がある。
「ハッカン、これ……」
「ん?飴だろ?」
「…いや、それぐらいおれにだってわかるけど……」
何で今日、飴を渡すのかが気になった。
飴玉を貰うような褒められた事をした記憶すらない。
不思議そうな表情で悟ったのかハッカンは「ああ、知らねーのか」と呟くと明るくこう言った。
「人間の世界では今日はホワイトデーなんだってよ」
「ほ、ほわいとでー?………食えるのか?」
色気より食い気の発言にハッカンはがく、と肩を落とすが
説明が必要だと察し、分かりやすく説明した。
「ホワイトデーってのは…まぁ分かりやすく言うと男が女に何かプレゼントする日だな。
元々バレンタインデーに女が男にあげるのに逆がないのはずるいやら何やらって感じで
広まったらしいが……」
「ば、ばれんたいんでー?」
新たな単語にイカルは首を傾げる。
ばれんたいんでーもほわいとでーもイカルは今日、初めて聞いた単語だ。
(横文字使われてもわかんねーよ……)
頭が意味を理解しようとは動かなかった。
「……バレンタインデーは、女が男に何かをプレゼントする日だ。
これはこっちの国特有らしいが……」
海外には男が女に渡す所もあると言おうとしたが未だにイカルが理解していないようなので
ハッカンはとりあえず説明を一旦止めた。
イカルはうーん、うーんと唸りながら理解しようと頭を動かす。
そしてぴーんと閃いた。
「分かった!つまりほ、ほわいとでーは飴を貰える日なんだな!!」
「……は?」
突拍子もないイカルの一言にハッカンは目を瞬かせた。
だがイカルは自分の世界に入っており目を輝かせながら飴玉を見つめていた。
そしてうっとりしたように、呟く。
「じゃあ毎日がほわいとでーってやつだったらいつも飴が貰えるって事だよなっ……」
飴に囲まれて過ごす生活を夢見、イカルは嬉しそうに息を吐く。
「………おい、チビ。」
間違った方向に勘違いしているイカルを止めようとハッカンが口を出す。
「ん、何だよハッカン?…あ、もしかして明日も飴くれるのか!?」
目をきらきら輝かせてハッカンを見つめるイカルだったが。

バチンッ。

「いたっ」
ハッカンにでこぴんをされ、イカルは額を痛そうに擦る。
「何すんだよハッカン〜!!」
目にうっすらと涙を浮かべながら反論すると、ハッカンは頭をぐりぐりし始めた。
「バーカ。毎日ホワイトデーだったらやる意味ねーだろ?ちったぁ理解しろ」
「いたたたたっ!!だ、だって毎日貰えたら幸せじゃんか〜!!」
痛みに耐えつつもホワイトデーの妄想の消えないイカルにハッカンは深いため息を吐いた。
「毎日もらえないから記念日なんだよ。つかお前毎日飴食ってたら虫歯になるぞ?」
「げっ……。そ、それはヤだけどさ……でも毎日食べたいじゃん」
「お前なぁ……そういう我が侭言ってっからまだガキなんだぞ?」
「うるさい!!ガキって言うなよな!!」
自分をガキ扱いするハッカンにそう苛立ちながら叫ぶと
ハッカンの手は自然とイカルの頭から離れた。
痛さが頭に残っており思いっきり睨んでやるとハッカンはまたため息をついた。
そうして静かな声で呟く。
「……たまにしかもらえねーから良いんだろ?プレゼントってやつはよ」
「……え?」
突然真顔で語るハッカンを目にし、イカルは黙って彼を見つめる。
「毎日貰ってちゃ稀少価値なんかねーじゃねーか。
…オレから毎日プレゼント貰ったとしたら、お前どう思う?」
「………不気味だなと思う」
確かに毎日自分に飴をプレゼントするハッカンは想像出来ない。
むしろ「オレが食う」とか言って独り占めしそうだな…とか思う。
「だろ?たまーにちょこちょこあげるのが良いんだよ、プレゼントってやつはよ」
笑みを浮かべながら語るハッカンを見てイカルは無言のまま考える。
(たまにあげるからいい……か)
確かに毎日貰っても何か悪いような気がする。
それにたまに貰える時に感じるあの喜びは毎日貰っていてはきっと味わえないだろう。
あげなさすぎなのもそれはそれで寂しいがあげすぎるもの物足りない気がする。
(……ハッカンの言うとおりかもな。…確かに毎日記念日じゃつまんねーよ)
1年に1回来てこそ記念日というものだ。
そう思い、イカルは手元にある袋をぎゅっと握った。
ハッカンに言わなければならない事があった。
「あ、あのさ、ハッカン……」
「ん?何だよ?」
「………」
いざ言おうとすると妙に恥ずかしいものがある。
だが折角自分のために飴玉をプレゼントしてくれたのだ。ちゃんと言わなければいけない。
「……ありがと、な…」
照れながら礼をのべるとハッカンの顔が面食らったような表情に変わった。
「…………」
ハッカンは無言でイカルを見つめている。
「……は、ハッカン……?」
突然黙りだした相手を不思議そうにイカルは見つめる。
もしかして何かマズい事を言ったんじゃ…と不安に駆られたその時。
「………イカル」
「……え?」
普段は呼んでくれない自分の名を、呼ばれた。
あまりに唐突に呼ばれたので驚きながらハッカンを見つめると。

ぎゅっと抱きしめられていた。
「……ハ、ハッカン……?」
突然抱きしめられ、驚きと恥ずかしさとがこみ上げて顔が真っ赤になっていくのが分かった。
焦りながらハッカンの名を呼ぶが、彼は黙ったまま喋らない。
「…………」
「…………」
沈黙が部屋を支配する。
(……ど、どーしよう……)
動揺で回らない頭で、どうしようかと考えていた、刹那。

ぐいっ。
腕が引っ張られた感覚を感じたと思うと。
「んっ………」
「…………」
イカルはハッカンと唇を重ねていた。
(〜〜〜〜〜!?)
突然の事にイカルの頭は真っ白になる。
一体何が起こっているだと思いながら嫌がりもせずだた身を任せていた。
しばらくすると口の中に異物が押し入ってくるのが分かった。
「………っ………んんっ―……」
異物はイカルの舌をなぞって、絡み合った。
「ぁ…………ふっ………」
体の芯から痺れるような感覚が、体を支配した。
体がどんどん火照っていくのが分かる。
絡まる舌の感覚が、気持ち良い。
「―――――んっ」
苦しそうに眉を潜めるとハッカンはゆっくりと唇を離した。
銀色の糸が2人の間を伝う。
やがてそれは、ゆっくりと切れた。
「………」
キス一つで火照った体は快感から引き摺り落とされ、何だか落ち着かない。
先ほどまで重ねていたハッカンの唇をイカルは少し残念そうに眺めた。
「……何残念そうな顔してんだよ。」
「べ、別にしてねーよ、そんな顔なんか!!」
図星をつかれ、上擦った声で反論したがあまり説得力はなかった。
本人も気が付きしまった…と思うがもう遅い。
ハッカンはふ、と微笑するとイカルの頬に触れ優しく撫でた。
優しく甘ったるい声で、耳元で囁く。
「……こんなプレゼントなら、いつでもしてやってもいいぜ?」
いつもように不敵な笑みを浮かべながら。
イカルは顔を真っ赤に染めながら、驚く。
「…!!なっ、ななななな何言ってんだよ!!!ハッカンの馬鹿!!変態!!」
あまりに動揺しすぎて自分自身何言ってるのかがよく分かってなかった。
そんなイカルを楽しそうに眺めた後、ハッカンはわざとらしく落ち込んだ声で呟いた。
「変態っつーのはひでぇなぁ……傷ついちまったじゃねーか」
「うるさいっ!!いきなり襲ったお前が悪い!!」
イカルは怒りながらハッカンの胸をぽこぽこ叩くと
ハッカンは「はいはい、分かったっつーの」とイカルの手を強く掴んだ。
そして掴んだその手をしっかり握り締めると優しく撫でてくれた。
そうして撫でながら、呟く。
「…………飴、食べねーの?」
「……へ?」
突然突拍子もない事を言われてイカルは面食らった。
何故今突然飴の話になるのか、そう思っていた時。
突然お腹がぐ〜……と鳴った。
「………腹減った」
そういえば朝から何も食べてない…と思いながらハッカンから貰った袋を見つめる。
飴の甘い匂いが鼻につき、再びお腹が鳴る。
「……じゃ、一緒に食べようぜ。俺も腹減ってるしよ。」
「……ああ、じゃあ食べようぜハッカン。」
あまり納得はしないものの、腹が減っては大した話は出来ないだろう。
そう思い袋から赤い飴と黄色い飴を取り出す。
赤い方をハッカンに渡すと「サンキュ」と礼が返され飴を口の中に放り込む。
遅れてイカルがひょい、と口の中に放り込んだ。
「………」
「………」
口の中で飴を味わいながら、無言で食べていると。
「………うめぇ……」
イカルが突然ぼそりと呟いた。
飴は甘かった。
だが強烈に甘すぎるわけでもなく、程よい甘さで良い匂いがほのかに香る。
「だろ?」
ハッカンは嬉しそうに頷く。
味わおうと舌で飴を舐めていると次第に美味しさに思わず顔がほころぶ。
とても美味しい。
(……それに、ハッカンからのぷれぜんと…だしな)
自分の好みを理解しているハッカンだ。
おそらくイカルが何で喜ぶのか分かっているからこそ、飴をくれたのだと思う。
思わずにこにこしながらイカルはハッカンの顔を見つめる。
しばらくするとハッカンは視線に気が付き、イカルを怪訝そうに見つめ返した。
「何ニヤけてるんだよ。不気味だぞ」
「わ、悪かったな〜…不気味で」
ハッカンの遠慮のない言い草に思わずムッとなる。
(せっかくいい気分だったのにな〜……)
だがハッカンとのケンカは日常茶飯事だ。
いつもの事だと割り切る事も出来たがどうしてもそんな気にはなれない。
(…たまには普通の恋人同士のように…甘い雰囲気になりたい…)
普通にいちゃついてたいし、足蹴りされたりするより優しくして欲しい。
そんな事を思ってるのは自分だけなのだろうか。
「………」
気持ちを落ち込ませながら飴を舐めていると。
「……イカル」
「……ん?」
ハッカンが話し掛けてきた。
耳を傾けるとハッカンが自分の頭を優しく撫でながら、囁く。
「……お前の味、どんなんだよ?」
突然「味どうよ?」と聞かれて最初は意味が分からなかったが、
味というのだからおそらく飴の事だろうと思いながらハッカンの質問に答える。
「味って……普通のレモンっぽい………っ!!」
突然何かを思い出し、イカルはハッと息を呑みながら硬直した。
味といえば、そういえば昔ハッカンとこういう関係になる前に一度だけキスした事がある。
確かその時ハッカンは「お前の味の方が良かったかな」とかほざいたのだった。
あの時は悪趣味な嘘に騙され、本気で怒ったのだが。
(……まさか)
嫌な予感がし、イカルはおそるおそるハッカンの瞳を見つめる。
するとハッカンは悪戯っぽく笑いながら、イカルの顎を掴む。
身の危険を感じ、1歩下がるがもはや手遅れ。
ハッカンはイカルの顎を無理矢理上げさせ、唇を奪う。
「っ……!」
イカルは成す術もなくあっさりと唇を奪われた。
ただ唇に軽く触れるだけのキス。
それでもイカルの抵抗力を減らすだけの唇が触れ合う感触の心地よさがあった。
触れ合う唇の、熱さがあった。
「………ごちそうさん」
やがてハッカンは唇を離すとにやりと笑いながらイカルの顔を覗き込んだ。
イカルは顔を赤らめながらも怒りをぶつけるようにハッカンを叩いた。
「………変態」
「…はいはい、オレは変態ですよー」
能天気な言い方にますます苛立ち、イカルはぼす、とハッカンの胸に拳をぶつける。
ぼす、ぼすと良い音を立てながらハッカンは嫌がりもせずただイカルの攻撃を受けていた。
それがますます腹立だしい。
(………悔しい)
何だかこいつに負けた気がして悔しい。
自分がどんな事をされたら喜ぶかを知っての、あの行動。
何もかも見透かされているようで、苛立つ。
「………ハッカンのばーか……」
思わずボソリと呟く。
するとハッカンはふ、と微笑しイカルをぎゅっと抱きしめた。
イカルは驚く事もなく、ただ身を預けている。
(………こんな馬鹿が好きな、おれも馬鹿だ……)
ハッカンの胸の中でイカルは自分の心と向き合う。
何だかんだ言っても好きなのだ、ハッカンの事が。
それを再び理解してしまい、思わず顔を赤らめる。
(……ハッカンは気付いてるかな)
顔を赤らめている自分とか、妙にドキドキしている心臓とか。
だが顔を見てもおそらくハッカンの考えなど読めないだろう。
(………ずるいや)
いつもハッカンが有利で、ずるい。
何で自分はいつも不利な立場にいるのだろうか。
何故いつも自分が言い負かされいるのだろうか。
(……おれ、一生こいつには勝てないのかな……)
そう思うと何だかとても悔しい。
そんな事を考えているうちに、イカルはうとうとし始めてきた。
先ほどから凄く眠かったし、何よりハッカンの胸の中が凄く温かい。
うとうとし始めたイカルに気が付いたのかハッカンが優しく囁く。
「………眠かったら寝ていーぜ?……今日はまだ始まったばっかだしな…」
「後で起きたら遊ぼーぜ」などと呟きながらハッカンはイカルの頭を優しく撫でる。
イカルはこく…と小さく頷いた。
撫でられた指の感触が心地よい
温かさも影響してか、やがて意識が朦朧としてくる。
目を閉じ、意識が途切れる寸前、思うのだ。
(………幸せだなぁ…)
ハッカンとこうして一緒にいられて。
凄く、幸せだった。
(……甘い感じが、する)
優しく抱きとめるハッカンの胸にすがりつきながら、イカルは甘い匂いを感じた。
それは自分達が食べた飴の匂いなのか、はたまたハッカンの体の匂いなのかは分からない。
だだ今は、その甘い幸せがあればいい。
甘い幸せが心地よい。
「………きだ………ッカン……」
一言言葉を呟くと、イカルの意識は眠りへとついた。
温かい体に身を任せながら、甘い世界へと。
甘い幸せを、感じながら。