散れ
コンコン……
会いたい人の部屋を遠慮がちにレンジャクは叩いた。
「………」
返事がない。
…部屋にいないのだろうか。
「………」
一体どうしたものか、と少し悩んだが
やがて対した重要な用事でもないだろう、と思い引き返す事にした。
そうしてレンジャクは扉から離れ廊下を歩いていくが
数歩歩いてから名残惜しそうにさきほどまで佇んでいた扉を見つめた。
「………」
扉を見つめ、思わず懐かしさがこみ上げてくる。
会いたい人―ハッカンはよく自分の部屋にレンジャクを招き入れる。
『ちょっとは構ってくれよ。恋人に対して冷たいんじゃねーの?』
だとか何とか色々理由をつけてよく部屋へと誘ってきた。
そんなハッカンを子供だな、と思うと同時に多少の喜びを感じたのも事実だった。
多少乱暴なやり方のような気もするが誘われる事事態は嫌ではなかった。
そして部屋では端から見たらすごくくだらない雑談やら、喧嘩などをした。
体を重ねた事だって数え切れないぐらいあった。
そうして過ごしていくうちにいつしかハッカンの部屋へ行く事が習慣になっていた。
…もちろん誘われなければ行かないのだが。
そんな昔の出来事を思い出しながらレンジャクは歩みを止め、
寂しそうにハッカンの部屋の扉を見つめる。
「………」
そうしてしばらくその扉をじっと見つめてたら、その扉から人影が姿を現した。
「ふわぁぁぁぁ………」
「………!!」
眠たげに欠伸をする姿を見てレンジャクは息を飲んだ。
そこには部屋にやってきた理由の元となる人物―ハッカンがいたからだ。
さきほど扉をノックした時には返答がなかったので
きっといないと思っていたのだがどうやら眠っていただけらしい。
そうして突然現れたハッカンを凝視していたレンジャクに気が付き、
ハッカンは「よぉ、レンジャク」と笑みを見せながら手を振った。
「……いたのか、ハッカン」
いないと思っていた人物が現れて驚いたがそれを悟られないように冷静に呟いた。
するとハッカンは廊下へ出て、部屋の扉を閉めながらレンジャクに疑問を投げかける。
「もしかしてさっきドアノックしたのお前?
半分寝てたから気が付くの遅れたんだけど。」
やはり眠っていたのか、と思いながらレンジャクは質問に答えた。
「……ああ、俺だが……」
そう言うや否やハッカンは悪戯めいた笑みをレンジャクに向け
からかうように言葉を吐いた。
「お前がオレの部屋来るなんて珍しいな。で、用事は何だよ?」
「………」
突然さらりと聞かれ、レンジャクは言葉に詰まる。
言ってもいい事と悪い事の違いなどレンジャクには分かっている。
今日彼の部屋を訪れた本当の理由を話したら…ハッカンはどう思うだろうか。
「………」
そう思うと良い言い訳が思い浮かばない。
一体どんな言葉を言えば、彼は納得してくれるだろうか。
そうしてしばらく黙っているとハッカンが一息ついた後、ゆっくりと廊下を歩き始めた。
レンジャクの傍まで寄るとハッカンはレンジャクをぎゅっ、と優しく抱きしめた。
「…ま、言いたくねーんなら良いけどよ。……言いたくなったら言えよ、聞いてやるからさ」
ハッカンに強く抱きしめられ胸に大きな安堵感を感じながら
レンジャクはぎこちなく背中に腕を回す。
こんな時どういう言葉を呟けばいいのか分からなかったので黙って首を縦に振った。
そんなレンジャクの反応をふ、と微笑しながら見つめたハッカンは
レンジャクの手を掴みそのまま引っ張って、ハッカンの部屋へと招き入れた。
バタン…と扉が閉まったと思うとハッカンはすぐさまレンジャクを抱き寄せた。
さきほどよりも強く…離さないように。
「レンジャク……」
優しく耳元で囁かれくすぐったく思いながらもレンジャクはハッカンに身をゆだねていた。
そうしてゆっくりと瞼を閉じ、二人は互いの唇の感触を確かめ合う。
ただ唇を重ねるだけの簡単なキスなのにどうしてだろうか。…感情が高ぶる。
ハッカンの唇が離れた瞬間、彼は寂しそうに呟いた。
「…ずっと会いたかったんだぜ」
「………」
ここ最近仕事で予定が合わなかったハッカンとレンジャクは今日久しぶりに会ったのだった。
ハッカンは自分と会えない時間を寂しく思いながら過ごしていたらしい。
…そう思うとレンジャクは胸がつまるような想いを感じた。
「レンジャク……!」
「……ハッカ……っん……」
ハッカンの叫ぶような声を聞いた刹那、彼に再び唇を奪われる。
唇の隙間から異物が入り、一瞬不思議な感覚に捕らわれたが
優しく歯列をなぞり、舌を絡めるその感触を心地よいと感じた。
「………んぅ、ふ……っ」
自分から舌を絡めて、ハッカンと手を絡ませる。
そんな風に会えなかった時間を埋めるように、二人を唇を重ねていた。
何度も何度も、絡み合って。
「来いよ、レンジャク」
寝室の入り口でハッカンが手を差し出しながら呼ぶ。
「………」
呼ばれたという事はどういう事かレンジャクも良く知ってる。
きっと抱かれるのだろう。…ハッカンの手によって。
そう思うと何故だか歩む寄れなくなってしまう。
「……?レンジャク?」
いつもと様子が違うレンジャクをハッカンは不思議そうに見つめる。
…いつもならもう彼の元へ行っているのに今日だけは何故、と不思議がっているに違いない。
自分だってハッカンに抱かれたい、そう思っている。
…だけどレンジャクには素直に傍にいけない理由があった。
(……今ハッカンに抱かれれば、きっと決心が鈍る…)
決意した事をやりとげようとするならばきっと今抱かれるのは駄目だとレンジャクは思った。
…いや、そもそも彼の部屋に着た時から鈍り始めているのかもしれない。
離れたくないと願ってしまうだろう。…抱かれればなおそらそう思うだろう。
だけど本能が抱きしめられたいと望んでいる。
…ハッカンの体温を感じて縋りたいと思っている自分もいる。
そんな自分に戸惑いながらもレンジャクはゆっくりと歩き出す。
…このままこの扉から帰る事だって出来た。
だけどレンジャクは…それを選ぶ事を拒否した。
…本能が勝った。
「……ハッカン……」
ハッカンの傍へ行き彼の手をぎこちなく握った。
するとハッカンはふ、と微笑しながらレンジャクを引き寄せた。
そうして抱きしめレンジャクの髪に触れながら、小さく囁く。
「……悪ぃな、レンジャク。…あんま乗り気じゃねーのに」
そう呟くハッカンを横目で見ながらレンジャクは言葉の意味を理解する。
どうやらさきほどまで躊躇っていた様子を勘違いしたらしい。
だけど躊躇っていた本当の理由を知ったらきっとハッカンは怒ってしまうだろう。
…否、きっと何もいわずに立ち去った場合でもきっと彼は怒るだろう。
どっちにしろ怒られるのだな、と思うと少しだけ気が晴れた。
そうしてハッカンに悟られないように冷静を装うと彼の言葉に合わせて、返す。
「…別に……構わない」
本当の気持ちを押さえてそう言うとハッカンは嬉しそうに笑みを向けた。
そうしてレンジャクの手の甲に軽く口付けるとそのまま寝室へと引っ張っていった。
寝室に入りそのまま自然とシーツの上に座ると正面からハッカンが顔を寄せてきた。
そうしてレンジャクの顎に手を添えながら唇を奪う。
「ん………」
ハッカンの唇の感触は思いのほか優しく不思議と安心してしまう。
初めて彼とこうした時も思ったのだが今日は一段とそう思えて。
…きっとこんな風に思うから、雰囲気が柔らかくなったなどと言われるのだろう。
神無ノ鳥らしくなくなったから…言われたのだろう。
唇が離れたと分かると上着の前側が開かれ冷たい外気に晒され身じろぐ。
身じろいだのが寒いからだというのも理由だが
ハッカンにじっと見つめられるのが恥ずかしくなったのも理由だった。
レンジャクの心情を読んだのか否か、
ハッカンは悪戯めいた笑みをレンジャクに向けるとそのまま首筋に唇を寄せた。
痕を残すように強く吸いながら、掌はレンジャクの胸の突起物を弄っていた。
「……ぁ」
思わず漏れた自分の声を聞きレンジャクは羞恥に顔を赤らめる。
そんなレンジャクを横目で見ながらハッカンは楽しそうな表情を浮かべ、
首筋に添って舌を移動させながら指では突起物を優しく撫で回す。
「ハッカン…やめっ……っん」
嫌だと首を振りながら請うが逆にハッカンを煽る結果となってしまう。
顔を赤らめ息を乱しながら呟くレンジャクはハッカンにとっては逆に昂ぶらせる結果になった。
「…やめて欲しいのか?」
にやつきながら囁くとレンジャクは「っ……」と言葉を詰まらせながら首を横に振った。
首を横に振るなんて屈辱的だと思ったが放置される事の方がもっと辛い。
レンジャクには段々固さを持ち始めたものがある事を理解していた。
「…虐めちまって悪ぃなレンジャク。」
レンジャクの不服そうな表情を見て咄嗟に理解したのかハッカンが謝りながら頭を撫でる。
「………!!」
からかわれたのだと分かりレンジャクはギッとハッカンを睨みつける。
だがハッカンにその睨みは通用しなかったらしく「怖い表情すんなよ〜」と呑気に呟いた。
そうして苛立ちながら顔を合わせないように首を横に向けると
ハッカンは「…へぇ」と呟きながら手を胸へ這わせる。
「っ………」
何ともいえない感覚にレンジャクは声を漏らしそうになるがプライドがそれを許さなかった。
「……我慢しなくてもいいんだぜ、レンジャク?」
今のレンジャクには嫌味にしか聞こえない言葉を言いながら、
ハッカンは手を動かすのを止めなかった。
「………っ、………」
快感を感じながらもレンジャクは声を漏らす事を許さなかった。
強情な彼を見てハッカンがため息を吐くと、
掌で胸を撫でている手に加え、口に乳首を咥え舌で舐め始めた。
「………!!っ、くっ………ああっ……」
堪えきれず漏れた声が室内に響いた。
レンジャクのなんともいえない表情を見ながら勝ち誇ったように笑みを浮かべながら
胸板を撫でていた手を加えていない方の乳首へとあてがった。
そうして指で弄り始める。
「や、やめっ………ばっ……ぁっ…!」
両方の乳首を弄られレンジャクは耐え切れず喘ぎ声が出る。
ハッカンはレンジャクの弱い部分を知っている所為か執着にそこだけを攻める。
やがて嫌がる事も忘れたレンジャクは快楽に身を任せながら
ハッカンの攻める部分に反応し声をあげた。
だんだん素直に反応を見せてきたレンジャクを
ハッカンは高めさせようと指を、舌を、掌を動かす。
そうして互いに高めあいながら行為は続けられた…
「……ハッカンっ……く、ふっ……」
レンジャクの上半身に唇で痕を残しながら下へ下へと下っていく最中、声をかけられた。
「ん?…何だよレンジャク?」
「………もう、いいから………早く…」
『早く』の意味を理解したハッカンはまたからかおうかとも思ったが
拗ねられると困るし、何より自分を求めたレンジャクの表情が
艶っぽく目に映り自分のものが限界に近付いていたので「…ああ」と頷いた。
レンジャクは顔を赤らめながらズボンを脱がされる様を見つめる。
脱がされたそこには少しだけ先走っていた液体があった。
「………」
「…じ、じっと見るな、馬鹿っ………」
黙って先走りを見つめていたハッカンを怒鳴りながら
レンジャクは羞恥心にますます顔を赤く染める。
そんなレンジャクの態度を可愛いな…と思いながらハッカンは指で先走りに触れた。
「っ……」
触れられ反応をしたレンジャクを見ながらハッカンは目の前でそれを舐め取る。
舐められた姿が見たくなかったのかレンジャクは顔を背けたが
すぐさま指で弄られ、首を元の位置に戻してしまう。
「はっ………っく……んんっ…」
今にでも出てしまいそうなそれを掌で弄られレンジャクは目をつむる。
出てしまわないように堪えながら耐えるその姿を見つめながらハッカンは優しくこう呟いた。
「…出してもいいんだぜ?我慢すんなよ」
「ゃ……ふぁっ……」
ハッカンの巧みな手によって気を抜けばすぐにでも射精しそうなのを我慢しながら首を横に振る。
限界が近付くにつれ焦りが生じ、レンジャクは思わず本音を言ってしまう。
「っ……1人では………たく、ない……」
手で扱かれ意識がどうしてもそちらにいこうとしてしまう最中、やっと口に出来たその言葉。
少し恥ずかしかったが先に1人でいく方が恥ずかしい。
言葉の意味が理解できたのかハッカンは扱っていた掌を離し、レンジャクの体を抱きしめた。
優しく抱きとめながら、耳元で囁く。
「…分かった。…じゃ、挿れてもいいか、レンジャク…?」
「………」
言葉で言うのは恥ずかしいのでこく、と首を縦に振ると
ハッカンは頬にキスをしその後指を一本、レンジャクの中側へと入れた。
「んっ……」
中に入ってきた異物に痛みを感じながらもレンジャクは目をきつく閉じながら耐えた。
そうして視界を塞ぐと中にハッカンの指がある感触が強く感じられる。
指は弱い部分を探るかのように動き回りやがて強く突いてきた。
「っ、あっ………」
突然突かれ、びくんと体が動くが痛みよりも気持ち良いという快感が体を占めた。
突かれた所為か先走りが少しずつ溢れ出してくる。
レンジャクの反応を見ながらハッカンは指を抜き差しし指を増やしながら慣らさせていく。
段々と慣れてきた事を確かめるとハッカンは指を抜き、
先走りしているレンジャクのものへと指を這わせた。
その先走りを指ですくい上げながら、挿れる穴の入り口へと液体を付ける。
レンジャクはびく、と体を震わせハッカンの行動を見守るが
挿れる準備が整うにつれて段々と不安を感じてきてしまう。
(……本当に、これでよかったのか…?)
そうしてふと、自分がこの部屋に来た理由を思い出す。
今日来た理由はこんな事をするためではないと思いながらも、
心のどこかでそれを望んでいた自分もいたのも確かだった。
こんな風に抱かれたら、行きたくなくなる事だって分かっていたのに。
…それでも望んでしまった。
(………行きたくない…)
このままハッカンとこうやって一緒にいたい。
これで『終わり』などとは思いたくない。
だけどあの方の命令に逆らう事などレンジャクには出来そうにもなかった。
神無ノ鳥にとってあの方は「すべて」だから。
…裏切るわけにはいかないのだ。
「おい、レンジャク……?」
レンジャクの顔を覗き込みながらハッカンは心配そうな表情を向ける。
その心配した表情を見て一体どうしたのだろうと思ったが
おそらく行為に集中せずに思考に集中していて不安そうな表情でもしていたのだろう。
別に平気だ、という意味をこめて首を縦に振ると「…そっか」と返事が返ってきた。
そうしてハッカンはすぐさまレンジャクの腰を掴み、傍に引き寄せると
足を開かせながらゆっくりと腰を下ろした。
「っ………くっ………んんっ……」
レンジャクの中へハッカンのものが挿入してくる。
濡らしてくれたので多少は痛みも和らいでいるとは思うのだがそれでも痛い事に変わりは無い。
だが痛いと言ってしまえばきっとハッカンなら辞めるだろう。
辞めて欲しくない、と思いレンジャクは痛みに耐えながら目をきつく閉じた。
「……っく、きつ……っ」
挿れたハッカンも痛みを感じ、表情をきつくする。
ゆっくりと中へ進入していくそれを感じながらレンジャクは痛みに顔を歪める。
「く………ああ……っ」
やがて自分1人では耐え切れなくなりハッカンの背中に腕を回して縋った。
そうして縋ると優しく背中を擦られている事が分かった。
彼の優しさを感じ何か言おうとしたが、痛みのせいで声を掛けることすらままならない。
やがて先に口を開いたのは彼の方だった。
「っレンジャクっ…………力、抜けよっ……」
「…ハッカンっ…………っん」
乱暴に唇を塞がれレンジャクは唇の方へ気をとられる。
そうしているうちにハッカンのものはレンジャクの中へと進入していく。
互いの体が汗で濡れ、痛みが互いを結び付けている事が分かる。
やがて気を紛らわされていくうちに深い所まで行ったのか痛みも少しだけ和らいできた。
「ん………」
多少落ち着きを取り戻したレンジャクは目を開きハッカンの顔を見つめる。
ハッカンはレンジャクの汗ばんだ額に張り付いていた髪をそっとはらってやると
「大丈夫か?」と口にした。
「………ああ」
実際には痛みを感じたのだがあれぐらいなら大丈夫。
…昔あの方としていた時より痛みは感じなかったのでレンジャクは素直にそう呟いた。
「…動くぞ」
そう言ってハッカンはレンジャクの太腿を掴み挿し抜きをし始める。
「っやめ………ふっ、あぁっ……」
内壁をきしませながら挿し抜きされレンジャクの口から声が漏れる。
さきほどまで声を出す事すら恥ずかしがっていたレンジャクは
今ではもう恥ずかしいとか思う暇もなくただ与えられた快楽に身を任せるしか出来なかった。
そうして抜き差しされ、弱い部分を突かれると
レンジャクは思わず「あっ」と小さく叫び先走りが少しだけ溢れた。
このままではハッカンに掛かってしまうと思いレンジャクは自分の手で処理する事にした。
そうして自分のものに触れる寸前ハッカンに手首を握られ手をハッカンの背中へと戻させた。
そして変わりにハッカンの手がレンジャクのものを掴みそっと撫で始める。
触れられ今にでも出そうなのを我慢しながらレンジャクは「ど…して」と呟く。
「…オレにさせろよ」
そう呟いてすぐさま挿し抜きをしながらレンジャクのものを愛撫し始めて
レンジャクは身を竦めながらハッカンの体へ唇を這わせる。
「はぁ……はぁ……っ、レンジャク……?」
「ん……っく………はぁ……っ」
ハッカンの胸に赤い痕を残していきながらレンジャクは色んな場所を吸っていった。
…普段はこんな事しないのだが今日は特別だと、思った。
(……ハッカン……)
やはり、抱き合ったのは間違いだった。
…こんな気持ちになるんなら来ない方がよかったと、今更ながら思う。
だけどもう、手遅れだ。
そんな事を思いながらレンジャクはぎこちなく唇を添えたり、ハッカンと唇を重ねたりした。