一つの花。

「プラチナの馬鹿ー!!」
けたましい赤の王子の声が城内に響いた。
その声の大きさに耳を塞いだ青の王子は泣きながら出て行く兄に目をやる。
「兄上っ……」
バターン!と激しい音を出しながら閉まった
その扉をプラチナはただ呆然と見るしかなかった。
そして喧しい廊下を走っていく音が聞こえなくなるとプラチナはがくりと項垂れた。,br> 事の始まりは単純な事だった。

『プラチナ、明日暇〜?』
王の業務中参謀であるアレクがプラチナ宛の書類を渡しながら聞いてきた。
プラチナはそれを受け取ると「そうだな…」と呟き机の上の書類を見る。
『…………』
机の上の書類を見てプラチナはため息をついた。
この壮大な量は今日中に終わるわけがない。
しかも机どころか部屋に拡散している書類すらある。
今日徹夜してもこの量を片付ける事は出来そうにもなかった。
というわけでだした答えは。
『兄上、すまないが…この大量の書類を片付けなければならんのでな』
というか手伝っているアレクにだってこの書類の多さは分かっているはずだ。
なのに何故暇?と聞くのだろうかと思い問いただそうとしたその時。
『……やだ』
『…は?』
『やだやだやだ〜!!明日は絶対俺と外に出かけるの!!』
アレクは嫌々と駄々をこねるように首をぶんぶん振った。
突然の我が侭っぷりに少し驚いたが兄らしかぬ行動にプラチナは宥めるように言った。
『兄上、我が侭を言うな。俺は忙しいんだ』
『でもさーこんな量ぱぱっと今日中に終わらせれば良いじゃないか〜!!』
『それが出来ないから無理だと言っているんだ』
プラチナは我が侭を通そうという兄にうんざりしたように言葉を返した。
『それに外出ならいつでも出来るだろ?別に明日じゃなくても…』
『明日じゃなきゃ駄目なの〜!!絶対、明日!』
『………?』
何故アレクが明日に拘るのかよく分からなかった。
プラチナが不思議そうに首をかしげている事に気が付いたのか
アレクはおそるおそる聞いてみる。
『も、もしかして…憶えてない?』
『………何をだ?』
明日一体何があっただろうか。
思い出そうとしたがさっぱり憶えてない。
兄上に聞こうと思いアレクを見ると怒りに体が震えていた。
プラチナは兄の様子の変化に少しおどおどしながら
明日一体何があるのか聞こうと思った。
『あ、あにう』
『も〜何だよ!!俺だけ覚えてても意味ないだろ!!プラチナの馬鹿ー!!』

そうして今に至るのであった。
「兄上……」
アレクを傷つけてしまった事による後悔の念をプラチナは感じていた。
だが目の前の書類がそんな念をあっさりするほどに消し去ってしまった。
この量をぱぱっとやれるわけがないのだ。
兄の我が侭に付き合わされる必要はない、と悟ったのだった。
「まったく、兄上は……」
そう言うや否やアレクの泣き顔を思い出しまた後悔の念が押し寄せてきたが
仕事に集中しなければ、と思い書類に目を戻した。
そうすると次第にアレクの言葉など忘れてしまったのだった。

「………はぁ」
部屋に戻ったアレクは目を擦りながら深いため息をついた。
(プラチナ……困った顔してたなぁ……)
弟の顔を思い出し、ちょっと我が侭言っちゃったかな、と後悔し始めた。
だがアレクにはどうしてもプラチナと行きたい所があった。
明日の準備だって万全だった。ルビイに弁当を頼んだりもした。
後はプラチナだけであったのに。
「……プラチナ、忘れちゃったのかなぁ……」
一年前の明日、アレクとプラチナはとある約束をした。
その約束を果たしに明日外へ出ようと思ったのだが。
肝心のプラチナが忘れていたらどうしようもなかった。
「……明日は特別な日なんだよ……?」
誰にともなくボソリと呟いた。
手元にあったクッションを抱きながらアレクはどさ、とベットに横になった。
瞼を閉じ、1年前の約束したあの日を思い出す。
あの日、共に約束していた事が2つあった。
その1つはいれるだけずっと傍にいようという約束。
そしてもう1つは。
「………一緒に行こうって言ったのに…」
そう呟くと寂しさがこみ上げてきたのか涙が流れた。
憶えていたのは自分だけだったのが悲しかった。
そうしてふと自分を暖かく見守ってくれていた人の笑顔が瞼の中に蘇った。
今はもう動かないその笑顔にアレクは安堵と、そして自分の弱さに涙が溢れた。
「……サフィ…」

「……ふぅ」
プラチナが時計を見ると時刻はすでに昼を回っていた。
アレクとケンカした翌日、プラチナは1人書類と戦っていた。
隣には参謀である兄の姿は無い。
部下に聞いたところどうやら朝からどこかへ行ってしまったようだ。
しかもルビイに弁当を作らせたとも聞いている。
一体何処へ行ったのだろうか。
プラチナは書類に目をやりながら心の隅でアレクを心配していた。
コンコン。
部屋の扉が叩かれた。
時間から察するにどうやら昼食のようだ。
プラチナが「入れ」と命令すると「失礼します」と声が返ってきた。
食事を持ってきたのはプラチナの部下であるカロールだった。
「プラチナ様。昼食を持ってきました。」
「そこに置いておいてくれ。なるべく仕事の邪魔にならない所にな。」
そう言うとカロールは「はい」と指指された場所に食事を置いた。
そして一緒に持ってきたカップにお茶の葉を入れる。
コポコポコポ…と熱湯の音が聞こえたと思うと、
カロールは何かを思い出したように「あ」と呟いた。
「そういえばプラチナ様、アレク様の姿が見えないようですが……」
部屋を見回しながらカロールが不思議そうに質問する。
「ああ、兄上は……朝からいないようだ。まったく…一体何処へ行ったんだ……」
深いため息を吐きながら書類に判子を押す。
そんなプラチナを見てカロールはクス、と笑う。
「アレク様らしいですね。……行き先は聞いているんですか?」
「いや、全然。……どこへ行ったんだろうな……」
行きそうな場所を考えながら書類を見ていると「どうぞ」と熱いお茶が出された。
プラチナは「すまない」と呟くと再び書類に目を通す。
そんなプラチナの仕事ぶりを間近に見、カロールは再びクス、と笑った。
そうしてしばらくした後そろそろ食べないと駄目だろうと思い食事に手を出すと
コンコン、と扉を叩く音がした。
物が口の中に入っているのでカロールに目配せするとカロールが「どうぞ」と返事をする。
ガチャ、と扉が開かれるとそこにはカロールの兄であるルビイがいた。
ルビイはカロールを見て「おお、いたいた」と呟く。
どうやらカロールを探していたようだった。
「いやー探したでカロール。一体どこに行ったのかと………ん?」
ルビイは部屋を見回した後、プラチナの姿をじっと見る。
プラチナは視線に気がつきお茶を飲みながら不思議そうにルビイを見た。
一体何なのだろうか。そう思っていた矢先に。
「な……なんでプラチナがここにおんねん!!」
プラチナを指差しながら声を荒げた。
「ルビイ、プラチナ様に失礼ですよ。」
指を刺した兄を注意するかのごとく睨まれルビイは「…すまん」と呟いた後
視線をプラチナへと戻し話題を元に戻す。
「プラチナ確か坊主と一緒に墓行ったんとちゃうんか?」
「……墓?」
初めて聞く単語にプラチナは首をかしげる。
墓に一体何の用があるのだろうか。
「…もしかして忘れたとちゃうんか?」
「何をだ?」
「………はぁ。やっぱりな」
その言葉にルビイはがっくりと肩を落とした。
「?」
プラチナが首をかしげながらカロールに視線を送るとカロールは首を振った。
どうやらカロールも知らないらしい。
視線をルビイに戻すとルビイはプラチナを正面から見据えた。
真面目にプラチナを見るその視線は少し悲しそうだった。
「…今日、参謀さん達の命日やで?」
「―――――――――――」
「坊主と約束したんやろ?命日は一緒に墓行こうて」
「………ぁ」
やっと思い出した。
1年前の今日、サフィルスとジェイドの遺体を墓に埋めた。
そしてその時墓の前で2つの約束をしたのだった。
1つはできるだけ一緒にいようと。
そしてもう1つは。
「………墓参りだ…」
プラチナは思い出し、額に手をやった。
やっと思い出したのだった。
何故アレクがあれほど今日に拘っていた理由が今分かった。
プラチナの様子を見て、黙っていたカロールはゆっくりと立ち上がった。
そしてプラチナに近付き肩に手を置く。
「プラチナ様」
「……何だ、カロール」
顔を上げカロールの顔を見ると彼はにこりと笑っていた。
滅多に見ることのできない笑顔がそこにあった。
「今からでも間に合います。アレク様の元へと急いでください」
「!!カロール……」
その言葉にプラチナは驚愕した。
だが溜まっている書類を見た後「それは出来ない」と言った。
「王の仕事が優先だ。……兄上には悪いが俺は行けない」
「!!プラチナ様っ……」
プラチナの発言にカロールは駄目です、と必死に目線で願求した。
だがしかしプラチナは首を振るだけで行こうとはしなかった。
「………どれ」
ルビイが机の上の書類を見るとそこには大量の文字と奈落城特製の判子が押してあった。
それはもうまとめた書類の方であった。
「何や、見て判子押すだけの書類やんけ。こんなんプラチナがわざわざやる必要ないわ」
そうあっさり言うルビイにプラチナは睨みながら呟いた。
「簡単そうな仕事に見えるがこの判子で奈落は変わるんだ。…馬鹿にするな」
やってきた事が否定されたような気がしてプラチナは不機嫌そうだった。
そんな彼を見て「ああ、そういう意味で言ったんやないって」とルビイはつけたし、
プラチナの頭を優しく撫でた。
「…じゃ、参謀である坊主と話さなきゃならんわな」
「………行けというのか、仕事を放って置いて」
それは死んだジェイドが望む事ではないだろう。
だから王の仕事を放って置いてまで行く気にはなれなかった。
「お前天才やろ?だったらこんな仕事徹夜でぱっぱと出来るんとちゃう?
それとも出来んほどお前の腕は落ちたんかいな?」
「………」
プラチナはふと部屋の書類を見た。
確かに自分の腕ならこの量ぐらい徹夜で仕上げられるだろう。
締め切りにまで間に合わないかもしれないが。
ルビイの挑発に乗る気はなかったが少し悔しかったので挑発に乗ることにした。
「………ふん」
ガタ、と椅子の音を立てながら席をたつ。
プラチナはベットの近くにあった剣を腰にかけた後ばさ、と上着を翻し部屋の扉へと行く。
行く前にルビイとカロールを見た。
カロールはにこ、と笑いながら自分を見送っていた。
ルビイは呑気にひらひらと手を振っていた。
「……ありがとう」
2人の優しさに感謝しながらプラチナは大急ぎで城から出た。
行き先はサフィルスとジェイドの墓。
日が暮れる前に着くように、走った。

「サフィ……ジェイド……」
アレクは墓をじっと見つめていた。
墓には名は刻まれていない。
それはアレクとプラチナの配慮だった。
サフィルスとジェイドは城では裏切り者として扱われている。
その裏切り者の墓を荒らす人物が出るのではないか、という不安があった。
だから墓には名は刻まれていない。
あるのはただ一言。
『ここに眠る』

「……サフィ……」
アレクは今は亡き、自分の参謀の名を唱える。
答える声はもちろん無かった。
アレクの手元には花束があった。
それは奈落城で摘んだ花だった。
だがアレクはその花束を墓に添える事はまだしていなかった。
待っているのだ。
自分の弟を。
「…一緒に花を供えようって…言ったからね…」
誰にともなくそう呟くとアレクは空を見上げた。
空は赤と蒼のグラデーションがかかっていた。
どうやらもうすぐ、夜になるらしい。
「……帰らなきゃ、怒られるよね…」
さすがに深夜に帰るとなるとプラチナや他の部下達に怒られる。
だがアレクは今日という日が終わるまでここにいたい気分だった。
でないと昨日の夜のように寂しさがこみ上げてきそうだったからだ。
(……1人じゃないのに寂しいって思うなんて…駄目だよね……)
沢山の仲間がいるのだ。喜ぶべき事なのに。
寂しいとアレクは感じた。
本当は1人なんじゃないかって思う時があった。
「………サフィは、ジェイドと一緒にいるんでしょ…?」
アレクは墓と同じ高さに屈みながら呟く。
「ジェイドは性格悪いし色々面倒くさそうだけど…仲良くやってるよね……?」
本人が聞いたら怒りそうな言葉だ。
そう思いアレクはふふ、と微笑した。
その刹那。
「性格の悪い参謀で悪かったな」
「………え?」
アレクは心臓をどきどきさせながら墓を見る。
ジェイドが蘇ったのかと一瞬本気でそう思った。
だが考えてみると後ろから声が聞こえたし、何よりそれは自分のよく知っている
人物の声だったのでアレクは少しほっとした。
だがそれと同時に何故ここにいるのだろうか、とも思った。
立ち上がりゆっくり振り返る。
するとそこには息を切らしながら花束を持っている弟―プラチナが立っていた。
「……プ、プラチナ……?」
何でここに……と言葉をつなげようとした。
だが繋げる事はままならずアレクはプラチナに抱きしめられていた。
「…プ、プププププラチナ…?」
顔を赤らめながらどもった声を出したアレクを気にとめることもなく、
ただ黙ってアレクを抱きしめていた。
顔を見上げると額から汗が流れている。
どうやら急いできてくれたらしい。
そんな弟に対して兄は気付かれないように微笑んだ。
嬉しかった。
約束を憶えてなかった事は辛かったがそれでも来てくれた。
それが何より、嬉しかった。
「……すなまい、兄上。…少し遅れた」
息を整えながら言葉を出すプラチナはとても辛そうだった。
元々体力がないプラチナだ。さぞかし辛かっただろう。
「大丈夫?…喉渇いたんならお茶あるよ?」
「……いらない……と言いたい所だが……貰おう」
素直に飲むと言わない強情っぷりにアレクはふふ、と笑った。
プラチナから離れると近くにあったバスケットの方へ行き、水筒を出す。
そして水筒にお茶を注ぎながら思っていた事を呟く。
「疲れているんならそう言えば良いのに〜」
「……五月蝿い」
見るとプラチナはぐったりと地面に座っていた。
かなり疲れていたようだ。確かに遠い距離だっただろう。
アレクがお茶を差し出すとプラチナすぐに飲み干してしまった。
「お代りいる?」
「……いる」
顔を赤らめながら呟く弟に兄は先ほどの沈んでいた気持ちが嘘だったかのように笑った。

お茶の時間が終わった後。
空が蒼に染まって星々が輝きだした時間に、
アレクとプラチナはようやく花束を墓に添えた。
花束を置いた後両手を合わせ、祈る。
「…………」
「…………」
心の片隅で生きていた頃のことを思い出す。
生まれたときから傍にいた、サフィルスとジェイド。
優しくアレクを育ててくれたサフィルス。
端から見たら厳しいしつけに見えたが隠れた愛情を持って育ててくれたジェイド。
そんな2人の顔を思い出しながら祈った。
魂の安らぎを。
そして決意を。,br> 「……また、泣かないんだな…兄上は…」
祈りをやめゆっくり目を開きながらプラチナがふとそんな事を呟く。
その呟きを耳にし無言で何かを考えた後アレクは「お前こそ」と反論した。
「お前こそ、泣かないんだな…」
その声は悲しみに満ち溢れていた。
それは相手が泣かない事が辛いのではない。
相手が泣けない事が辛かったのだった。
泣きたいはずなのに、辛いはずなのに。
アレクとプラチナは泣けなかった。
「……兄上、俺は大丈夫だから。」
「……俺だって、大丈夫だから。」
それは強がりだった。
相手を気遣っての事だろうが、その強がりがお互いにとってとても辛かった。
泣きたいだけ泣けば良いのに。
大声で叫んだり、声が枯れるぐらい泣いたって良いのに。
アレクもプラチナも、それはしなかった。
どちらかが泣いたらお互い壊れてしまいそうだったからだ。
だから、泣きたいという気持ちはなかった。
泣くとしても一人の時だけだった。
「…そうか。」
「…そうだよ。」
納得したかのように言うプラチナに対しアレクは冷静に言葉を返した。
実際プラチナも納得などしてないのだがどうせ答える事はないだろうと判断したのだ。
そうしてプラチナは墓の花を1本取り出し、アレクの目の前に差し出した。
「俺が持ってきた花だ。1本くらい貰っても罰は当たらないだろう……受け取れ。」
「……え?」
それはプラチナが来る途中買ってきたという百合の花だった。
あまり墓向けではないその花をアレクは思わず受け取る。
その花の香りがアレクの鼻にかすかに香る。
いい香りだな、とアレクはまじまじと花を見つめたがやがて
ハッとなり「い、いいよ花なんか!」とプラチナの胸に無理矢理押し当てた。
「お、俺花貰ってもすぐ枯れさせちゃうし…それにサフィとジェイド宛だろ、この花!?」
無理矢理返した兄を訝しげに見つめながらプラチナは「まぁそうだが…」と言葉を返す。
「でも綺麗だろう?…ここもいいが城の明るい所でも見てみたい。兄上の笑顔と共にこの花を」
そう言いプラチナは押し当てられていた花に触れアレクの手の中へ押しあてた。
呆然と、そして顔を赤らめながら自分を見る兄の顔に気がつきもせずに。
「……プラチナって…結構殺し文句をあっさり言うタイプなんだね……」
「…?」
ぼそりと独り言を呟く兄を不思議そうに見ながらプラチナは首をかしげる。
どうやら聞こえなかったらしい。
やがてアレクは再び花に視線を戻すと「あ」と短く叫びながら墓を見た。
そして墓に添えられていた花をプラチナに差し出す。
「これは俺が持ってきたやつだよ。受け取ってくれる?」
「……これは、薔薇か…?」
そう聞いてきたプラチナに「うん、そうだよ」とアレクは答えた。
「派手な方が良いと思って。…もしかしてプラチナ、薔薇嫌い?」
「……そういうわけではないが……」
薔薇を見て少し頭痛がしだしたのだがアレクを心配させるわけにはいかないと思い
プラチナは「ありがたく受け取っておく」と言い1本の薔薇を受け取った。
その薔薇はとても赤かった。
赤い赤い薔薇。
まるで血を塗られたようだった。
(……大丈夫だ、俺は……)
そう心の中で1人呟くとプラチナは空を見上げた。
完璧に夜だった。さすがにもうそろそろ帰らないと城の皆が心配する。
「…兄上、もう夜になったし…帰ろうか」
「あ、そうだね…ルビイやカロールも心配するしね」
同じく空を見上げながらそうアレクが言うとお互い花を持ちながら
ゆっくりと歩き出した。
兄の歩幅に合わせて歩いていると隣で幸せそうに鼻歌を歌っている兄の声が聞こえる。
何が嬉しいのだろうと思ったがやがて「あ、そうだ!」という
呑気な兄の声が思考を邪魔する。
「ねぇプラチナ。来年からお互い花をプレゼントし合うってのはどう?」
「……お互いに、花をプレゼント……?」
「うん、そう」
そう笑顔で頷いた兄を見て花をもらえたから嬉しいんだな、とプラチナは理解する。
そして花1本で嬉しくなった兄を見てかすかに微笑した後その提案に乗る。
「いいだろう。……来年は別の花を持ってこようか」
兄の姿を見て触発されたというのが最もな理由だったが
面白そうな話だとも思っので乗ったのだった。
アレクは「よし!」と嬉しそうに叫ぶとやがて呑気に呟いた。
「俺は来年黄色い薔薇にしよ〜っと!」
「……もう決めているのか?」
素早い対応にプラチナは関心と呆れた気持ちが半々だった。
「そうだよ、きっと綺麗だよ〜。うん、決定!」
「……そうか」
そう呟くとプラチナは歩きながら空を見上げた。
星々は輝き、穢れた大地を見守るかのように遥か高い所にある。
その星を見ながらプラチナは参謀達の事を思い出す。
あいつらがいた空には星はあっただろうか、などと思いながら。
「…………兄上」
「ん?何、プラチナ?」
鼻歌を止め弟の言葉に耳を傾ける。
プラチナは優しい声でこう呟いた。
「来年も、この星を見ながら…花を添えられると良いな」
星の輝きが空にあるのならば。
彼等がそこにいるのなら。
そして大切な君から花をもらえるのならば。
死ぬまで通い続ける事だろう。
「……うんっ!!」
アレクは満面の笑みでそう答えた。

空に流れ星が流れた。
2人の願いを叶えるように。
輝かしい光を帯びながら、流れる。
この穢れた大地を、癒すかのごとく。