…あの日。計画通り、彼を裏切ったあの日。
僕はまだ子供で…自分の傷を癒す事しか考えていなかったあの時。
…僕はあの人を斬ってしまった。
そうして再び彼と出会い、和解した時…自分がとても惨めに思えた。
あの人は僕と違って…凄く、輝いている。
…僕は出来ない事を、彼はやってのける。
…羨ましいと思ったんだ。
それと同時に妬ましくも、思ったんだ……
…何故僕と彼はこんなにも違うのだろう。
………何故。
違うモノ。同じ物。どうしようもない、もの。
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3月14日、天気・晴れ。
奈落王、アレク様のご機嫌がかなり良いらしく雲1つない晴天だった。
そんな誰しもが明るくなるそんな日に僕は…天気とは違い沈んだ表情をしていた。
「………はぁ…」
そうして仕事を一段落した後、窓から差し込む光に目を細めた。
「………むかつくぐらい良い天気ですね……」
天気も快晴で、日差しも温かくて昼寝日和と言った感じだ。
よほどアレク様の機嫌が良いのだろうな…と思うと普段の僕なら微笑ましく思うだろう。
だが今日はそうはいかなかった。
気分が落ち込んでいる今、この良い天気は苛立つものがある。
しかも天気が良い理由が「機嫌が良い」だ。
逆に機嫌の悪い僕にとっては羨ましいと思うと共に少し妬ましく思う。
そう思いながら僕は再びため息を一つ吐く。
(…アレク様を恨んでどうするんですかね……)
昔から勝手に恨む癖は直ってないのか…と思うと自分の心の狭さが惨めに思える。
そんな事を思いながら僕はじっと窓から空を眺めていた。
青く澄んだ空。果てしなく続く青空。
天気一つで表情を変えるその空を僕は幾度となく見てきた。
雨の日は雲に覆われ何も見えなく、ただ黒い雲だけが見える空。
雨が止み、そして美しい7色の虹を架ける事が出来る空。
色んな表情をするが、それでも空は決して消えない。
…世の中に消えないものがあるとしたらそれは空の事だと思う。
(……消えるものの方が多いですから……)
消えるもの。
消えないもの。
僕の周りのものは…すべて消えるものだと思っている。
例えば…そう、この幸せな風景。
沢山の仲間達に囲まれ、沢山助けてもらった彼等。
でも人間、いつしかいなくなるものだ。
そうして離れていくものだ。
だからきっと1人いなくなれば、1人また1人といなくなるに違いない。
それが悪い事だとは思わない。
けど寂しいとは、思う。
…だから「ずっと一緒にいられる」なんて思ってはいけないのだ。
たとえ、彼がそう言ってくれても。
(…信じ続けていたら、もし彼が離れていった時…辛いですから…)
そんな事を思いながら窓に手を置くと、ふと廊下から人の声が聞こえた。
声が様々な事から複数の人が一緒に歩いているのだな、と分かる。
(……誰でしょう…?)
僕は気になったのでその集団に気が付かれないように音を立てずに扉を小さく開いた。
扉の隙間から声を発している集団を見て「何だ…」と小さくため息を吐く。
それは城で働いているメイド達の声だった。
どうやら仕事を終えたらしく、掃除用具を手にかかえながらきゃっきゃと黄色い声をあげていた。
どうせメイド達のただの噂話が聞こえたのだろう、そう思い僕が扉を閉めようとした時…
「そういえば私さっきルビイ様からバレンタインデーのお返し貰っちゃった!!」
「―――」
ピタ、とドアノブを掴んでいた手が動きを止める。
意識せず止まってしまい僕自身も驚くがどうしても動かす事が出来なかった。
そのまま隙間でそのメイドを見つめながら、僕は彼女達の会話を聞く。
「え〜本当!?ルビイ様優しいー!私もあげれば良かった〜!!」
「何よ、あんたプラチナ様が好きなんでしょ〜?物狙いでルビイ様にあげないでよ!!」
ルビイからプレゼントを貰ったらしいメイドが顔をふくらませながら文句を言う。
そんなメイドを見ながらプラチナ様狙いのメイドがからかう様に呟いた。
「へぇ〜。っていうかお返しくれるって事はあんたに気があるんじゃない〜!?」
「―――――――」
その言葉に僕は思わず息を飲んだ。
「!!ば、馬鹿言わないでよ〜!!ただのお礼に決まってるでしょー!?」
ルビイからお返しを貰ったメイドが顔を真っ赤にしながら大声で叫ぶ。
そんなメイドを見ながらプラチナ様狙いの子が彼女の肩に肘を当てぐりぐりと押す。
「それにしては顔が赤いなぁ〜。もしかして本気にしちゃった?」
親父くさいからかいをしながらメイドがそう言うとルビイからお返しを貰ったメイドは
顔を赤らめながら笑顔でメイドを叩く。
「もう、からかわないでよ〜!!」
アハハハハ…と黄色い声を耳にしながら、僕は気が付くと扉を閉めていた。
「………」
何故だかむしょうに疲れてしまい、扉の前に座り込んだ。
そうしてふと、さきほどメイドが言っていた言葉を思い出す。
『バレンタインデーのお返し貰っちゃった!!』
彼女の嬉しそうな顔を見て、僕は何故だか酷く心が痛んだ。
…認めたくないが多分焼きもちというやつだろう。
心の狭い僕にならそんな感情があっても良いだろうし…などと卑屈に思いながらため息をつく。
そうしてふと、ルビイの器用さを思い出す。
彼は、誰にでも優しい。
頼ったら絶対助けてくれるし、気立ても良い。
それは彼と一緒に盗賊生活をしていた時、酷く理解した。
そうしてそんな彼を羨ましく思った。
…妬ましくも、思った。
だから彼を斬ってしまったのだと思う。恨みを込めて、強い念を入れて。
母親の仇打ちのようなものも理由の1つだが、やっぱり斬った理由は彼への妬みにあると思う。
…少しだけ血が繋がってるのに、何故こうも僕と彼は違うんだろう。
…僕は、彼のようにはなれない。
なりたくてもなれない。…あんな風に人を信じたり誰かを助けたりする事も…出来ない。
なれないものの傍にいて、何になるというのだろう。
性格の違うもの同士が近くにいる事は互いを刺激しあえて良いと昔聞いたような気がする。
だがそれは互いが対等だからこそ良いのだと思う。
…僕のように妬みや恨みという感情が激しい人物が彼が対等なわけないじゃないか。
こんなにも酷く、汚い僕が、彼と同じ『人間』?
「…………っはは………」
何故だか可笑しくなって、僕は思わず自嘲してしまった。
…今自分が思った事が可笑しくて笑ってしまったのだ。
何故今同じ『人間』だと心の中で呟いたのだろうか。
それ以前に僕は『奈落人』でも『天使』でもないじゃないか。
『混血』である僕が彼と同じ『人間』だなんて思ってどうするというんだ。
「……馬鹿ですね、僕は……」
再び自嘲すると僕は目を閉じ、瞑想する。
そうする事でしか逃げれない自分を、妬みながら。
コンコン……
「……カロール……いるかー…?」
夕方誰かの声により僕は目を覚ました。
むくりと上半身だけ起こし辺りを見渡す。
…どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
しかも先ほどまで扉によっかかっていたはずなのに今いる場所はベットの中だ。
…一体いつ移動したんだろう…と思いながら、ノックが聞こえた扉の方へと視線を向ける。
そうしていると再びコンコン、とノックの音が聞こえてきた。
「………?」
一体誰だろう…そう思いながら立ち上がり扉へと歩みだす。
そうしてドアノブを掴み扉を開けようとすると…
「カロール…?いないんか?」
「――――」
声の主が誰だか分かり、僕は思わず開けようとした手を止める。
今扉の目の前にいる相手が誰だか分かり躊躇ってしまったのだ。
(ルビイ……)
今僕の部屋を訪ねてきた相手は、ルビイ。
…先ほどまで彼の事を考えていた所為か何故だか開ける気が起きなかった。
このまま居留守でも使おうか…などと考えていると再び扉がノックされる。
「おい、カロールー!!いるのかいないのか返事しいやー!」
「………」
いないなら返事できるわけ無いじゃないですか…などと思いながらもカロールは小さくため息を吐く。
ルビイの性格から察するにきっとあと10分ぐらいは扉の前で粘るだろう。
それは少し恥ずかしい気がしたので僕は扉を開けることにする。
ガチャ………
「お、なんや。いたら返事しいや」
ルビイは僕の顔を見るなり笑顔でそう呟く。
「…すみません、寝てたものですから……」
一応本当の事を言うとルビイは「そっか」と納得して僕の部屋へと入っていった。
「……」
入ってくださいとも言ってないのに勝手に入られたので僕はじっとルビイを睨んだ。
しかし彼は気にした素振りもなく
人の部屋をきょろきょろ見渡すとやがて笑顔で僕の方へと振り向いた。
「カロール、問題出すけどええ?」
「…は?問題って……何の問題ですか?」
突然問題を出すと言われても困る、と思いながら僕は不思議そうに首を捻った。
「ほないくで。第1問〜」
「………」
だがルビイはまたもや気にした素振りもなく、勝手に話を進める。
というか第1問という事は第2問もあるんだろうか…などと思っていると
ルビイが思考を抑えるかのように丁度良いタイミングで問題を出した。
「今日は何の日やと思う?」
「……は?」
無理矢理参加を余儀なくされ、戸惑っている時にいきなり質問されても頭の整理がついてない。
なので僕は自然と聞き返してしまう。
するとルビイは「だから、今日は何の日や?」と再び質問を投げかけた。
今日は3月14日。…答えが何となくわかったので僕はぶっきらぼうに返事を返す。
「…………ホワイトデーですね」
「おっ、正解や!」
そう言うや否やルビイは嬉しそうに笑顔で笑った。
「………」
その笑顔を見て僕はむしょうに腹が立った。
今のルビイの問いは絶対答えを言ってくれると確信に満ち溢れたものだった。
…知らないふりでもすれば良かっただろうか。
そんな事を思ってると…ルビイが懐から何かを取り出す。
「ほい、ホワイトデーのプレゼント。受け取り」
「………」
そう言ってルビイが僕の手に手渡されたものは、チョコチップクッキーの入った小さな袋。
袋が透明で開け口に赤いリボンが巻いてあって、そして生暖かい事から察するに
ルビイの手作りクッキーなのではないかと思う。
「…………」
普段の僕なら受け取ってすぐにでもお礼を言ったと思う。
だが何故か…今この時、彼にお礼を言う事を忘れてしまっていた。
…そうして僕は自ら予想もしていなかった言葉を口にする。
「……あの子にも、同じのをあげたんですか…?」
そうして言ってしまってから「しまった」と思った。
「…ん?あの子?」
だが今から訂正しても遅かった。ルビイに聞こえてしまっていたのだ。
自分の失言に僕は冷汗をかきながら何も言葉を発する事が出来なかった。
「何でもないです」なんて言ってもルビイの事だ。
「何でもないわけないやろ」なんて言い返すに決まっている。
なので何か別の事を言おう、と思っても良い言い訳がちっとも思い浮かばない。
…どうしよう。
「………」
「………」
重い沈黙がのしかかる。
何であんな事言ってしまったのだろう…と思っても後の祭りだ。
……ああ、もう僕の馬鹿。
「……カロール……」
やがて重い沈黙を破るかのようにルビイが僕へ問い掛ける。
「…あの子って……誰や?プラチナとか、参謀さんとかか?
…いや、あいつらならあの子って言うわけあらへんか……。」
僕が口出す暇もなくルビイは自己解決をしてしまう。
もしこのタイミングで「そうですよ」なんて言ってたら騙せただろうか。
…いや、「あの子」と言ってしまったのだ。
きっと「そうですよ」と言っても嘘か本当かどうかの尋問が始まるであろう。
「………カロール」
再び黙った僕を心配そうにルビイが見下ろしてくる。
…その表情をじっと見て、先ほど彼に抱いていた感情がふと蘇る。
醜いほどの劣等感。
汚らしいと思うほどの妬みという感情。
そんな感情をあの人に抱いていたあの頃。
…でもそんな劣等感は今でもあるのかもしれない。
僕が僕である限り…あの人を妬んでしまうのだろうか?
…そんなのは嫌だ。
嫌だ……
僕は……僕は―――
「……!…カロール……?」
「………ぇ?」
ルビイが僕を驚愕したような目で見つめていたのを見て僕はようやく気が付く。
……目から涙が溢れていた。
音もなく、ただ流れていた。
「………何………で」
頬まで流れた涙を指で触れながら、呟く。
こんな事言っても聞きたいのはルビイの方だろう。僕がいきなり泣き出したんだから。
「………っく………」
そんな自分が惨めに思えて僕はがくりと膝をつく。
床に顔を押し当て彼の顔を見ないように、僕の泣き顔を見られないように…俯く。
「ぅっ………うぁ……………っく……っっ」
声を押し殺して泣いたと思ったのに自然と声が漏れていて、ますます惨めに思えた。
自分の泣き声で耳が酷く痛い。
自分の泣き声で心が酷く痛い。
…どうして僕はこんな風にしか出来ないんだろう。
言葉に出来なくて、だから泣いて…ただの子供じゃないか。
…なんで僕はこんなにも駄目な奴なんだろうか。
人を妬んで、ただ自分の惨めさを嘆いて何もしようとせず…現状にすら足掻いてなどいない。
ただ心の中で思っているだけで、行動しようともしない。
「……で僕は………こんな……こんな奴なんですか……っ!?」
声に出しても言って答えなど返ってくるわけがないのに。
彼を困らせてどうするっていうんだ。
…困らせて、同情でもして欲しいって言うんだろうか。
僕は彼に何を求めている?
言葉でも投げかけて欲しいんだろうか、否定して欲しいんだろうか。
……違う。そうじゃない。
そうじゃないんだ……
「……カロール」
優しい声を耳にしふと顔を上げるとルビイの顔がゆっくりと近付いてきた。
そして僕の頭を優しく撫でると、僕は彼にぎゅっと抱きしめられていた。
「…………」
言葉にならない嗚咽が、漏れる。
その声を聞きルビイは再び僕の頭を撫でた。
優しい手。
優しい微笑み。
優しい肌の感触。
どれも僕を落ち着かせてくれはしたけど…心の方はそうはいかなかった。
こうして彼に抱かれているのはますます劣等感を募らせるだけ。
自分は駄目な奴なんだと、理解させるものだった。
「……ビイ……………ルビ……ィ……」
声を出し彼の名を呼んでみる。
「……ん?……辛いんなら何も言わなくてもええよ。」
「………」
こうやって彼に優しくされるのは凄く、嬉しい。
けどやはりこんな心の広さを妬んでしまう。
…酷く不可思議なものだ。
彼を好きでいる気持ちと妬む気持ちが一緒に存在しているなんて。
僕は涙を堪えながら小さく、囁くように彼へ言葉を紡ぐ。
…知ってもらいたいと思ったのだ。…こんなにも無様で惨めな僕を。
「……僕は、最初………あなたからプレゼントを貰ったメイドの子に…嫉妬しました」
「………」
ルビイは何も言わず、ただ僕の話を聞きながら頭を撫でていてくれた。
そんな優しさを感じながら僕は再び声をあげる。
「………でもいつしか僕は……あなたに嫉妬しはじめました……。
あんな風に人に優しく出来たり…人のために何か出来るあなたを…妬みました……」
「…………」
彼の僕を抱く腕がぎゅっと強くなる。
「…僕はあなたのようにはなれないから……憧れる気持ちが嫉妬に変わりました……
……そして僕は、傍にいちゃいけないんだと思いました……
…あなたの事は……好きなんです。でも…それと共に妬む気持ちがあって……
だから僕はいちゃいけないって思ったんです……あなたを恨んでしまうのなら…」
好きなのに、こんな風に思ってしまうんなら。
だったら傍にいない方が良い。最初からなかった事にすれば良い。
…そうすればこんな不安定な感情を彼に抱く事なんてなくなる。
彼をずっと素直に好きでいられる。
…だから僕の答えはこれしかない。
………これしか、ないんだ。
「……妬んだり恨んだりしてたら、傍にいちゃあかんのか?」
ルビイの言葉を聞き僕は驚きのあまりバッと顔を上げ、彼をぎっと睨む。
「当たり前でしょう!?近くに恨んだり憎んだりしている奴がいて何になるっていうんですか!?」
そんな人が傍にいたってただ苦しくなるだけだと僕は思う。
…思うのに、彼は僕が予想だにもしなかった事ばかり、呟く。
「……そうか?ただ盲目的に愛し合ってるよりよっぽどええと思うけど。
…すべてを好きになる必要なんかない。嫌いな所は嫌いなんやし、妬む所は妬む」
「………っ!」
この人は何を言っているのだろうか。
自分の事を妬むような奴が傍にいて、幸せだとでも言うのだろうか。
…そんなのは幸せなのだろうか。
…そんなわけ、ない。
「ただ同じように好きだと言って良い所しか見ない。…そんな恋愛関係俺は嫌や。
…合わない部分は合わないんやし、だったら素直に嫌いって言い合える関係の方がええ。
…だから俺は自分を恨むような奴が傍におるのええと思うで?そっちの方がよっぽどタメになる。」
ルビイの言葉を聞き、僕は呆ける。
…タメになる、だって…?
なるわけないじゃないか……
「……それはあなただから言えるんです!僕は…そうは思いません。
だって妬んだり恨んだりしてる人が傍にいたら…辛くなるじゃないですか!
まるで自分自身を否定されてるようで…嫌になるじゃないですか…!!」
僕は泣きながら怒鳴り散らすかのように、叫んだ。
そうしてからふと感情的になりすぎたと気が付き、羞恥してしまう。
そんな僕を変わらず優しい眼差しで見つめながらルビイは意見を言うのを止めない。
「…じゃ、お前は俺という存在を否定しとるんか?」
突然そう言われ僕は息を飲む。
「っ……。……してません」
そんな訳無いと僕自身が言い切れる。
存在を否定しているわけじゃない。
否定できないからこそ辛いのであって、好きでいるからこんなにも辛いのだ。
僕の目に再び涙が溢れる。
…離れたいと思っているのに、何でこうもぐずぐず泣いているんだろう。
ルビイを心配させているだけじゃないか。
…それとも同情して欲しいとでも思ってるんだろうか。
そんな事を思っているとルビイが僕の肩に手を置いて、優しく囁く。
「…ならええやろ。そりゃ確かにお前と同じように否定されてるようで嫌やと思う奴もおると思うけど…
今は俺とお前の話をしてるんや。他人とか関係あらへん。
…俺はお前と一緒にいたい思うから、だから俺という人間を否定されたってええ。
それでも俺はお前を好きでいられる自信、あるんやから」
「…………」
………ほら、また僕は妬みだしました。
あなたのその素直な気持ちが…素直なその態度が…酷く羨ましい。
…僕はあなたのようにはなれません。
なれないから憧れるのだと思うし、妬むのだと思う。
…でもこれだけは言いたいです。
……言わせてください。
「…ルビイ……」
「…ん?何や?」
「………」
自分で声を掛けてから、僕は妙にドキドキしてしまう。
でも言わなければいけないのだ。
…それが自分の素直な気持ちなら、言葉にしなければいけない。
「……あの、ですね……僕も……」
言葉を続けようとしても、恥ずかしさから言葉を詰まらせてしまう。
言いたい事が言えないでどうするんだろう。
そんな事を思いながら僕はルビイの服をぎゅっと掴みながら、続きの言葉を囁く。
「……僕も、否定されても……好きでいますから」
言い切った後物凄く恥ずかしくなり体が妙に火照ってきたのが僕自身よく分かった。
きっと顔も真っ赤なのだろうな…と思うと妙に恥ずかしい。
俯きながら僕は言った満足感と言ってから感じた羞恥心に言葉を失った。
「………カロール」
自分を優しく呼ぶ声。
その声を聞き顔を上げると赤い彼の髪がやけに目に映った。
次の瞬間にはもう目を閉じて触れられている部分の感触と
触れている部分から漏れる水音と漏れる吐息を心地よく感じていた。
腕を絡ませて彼の胸へ顔を寄せ、幸せを噛み締めながら思う。
…傍にいたいと願った。
傍にいても良いと、言われた。
…憎む心を持って良いと、言われた事は嬉しいけれど。
でも僕は、憎む心よりあなたを愛する心を感じていた方が幸せです。
…またこんな風に憎むかもしれませんが……
でも僕は―
あなたを愛している気持ちだけは絶対に忘れません…。