姫はじめ
「…ふわぁぁぁぁぁ……」
1月1日某宿屋にて。
ロニは1人部屋でだらりとベットに横たわっていた。
しかも豪快な欠伸つき。
(……暇だ。)
ちらりと見ると時刻はすでに夜となっていた。
部屋の外から聞こえる音は寝る準備を始めている女性陣の慌しい音だけである。
眠気は全然ない。目はギンギンしていた。
どうやら普段しない昼寝を堂々とやっていた事が理由のようだ。
そんな訳で部屋でごろごろするしかないわけである。
ロニはごろりと寝返りをうった。
(ま、寝正月らしくていいか……)
向こうにいた頃は正月でも働き詰めだった。
ロニにとってはデュナミス孤児院で過ごした正月が最後の寝正月だった。
(そういえばルーティさんが「寝てないで子供の世話しなさい」ってよく言っていたよな…)
ルーティの言葉を思い出し、苦笑する。
まぁ子供の世話だけで済むなら良いのだが。
(……子供つったら)
ロニと一番仲が良かった子供といえば今一緒に旅をしているカイルだった。
神殿から久々に帰ってきた後その変化ぶりに驚かされる。
カイルは昔に比べしっかりしていたのだ。
そして今、旅をしている姿を見ているとその時よりも大人に見える。
そのうち子供とか呼べねーかもな、と思いつつロニは重い腰を上げる。
(……暇だからカイルの部屋にでも行くか)
夜だし寝てるだろう、と半々思いながらもロニはカイルの個室へと向かった。
カイルの部屋まで来た時、ふと見ると扉が少し開いていた。
明かりがついているので起きているのだろうか、と少し期待しつつ
無用心だな、と思いながらロニはノックする。
「…………あれ?」
だがしばらくしても反応がない。
不信に思ったロニは隙間から部屋を覗く。
すると落ち着き無さそうに部屋を歩き回っているカイルを見つけた。
(まったく…起きてるならノックぐらい気づけっての)
と思いながらロニは勝手に扉を開ける。
ガチャ、という音がしてやっとカイルは訪問者の存在に気が付いた。
「あ、ロニ。どうしたのこんな夜遅くに?」
カイルが不思議そうに見つめる。
まぁ確かにこんな夜に人なんざ来るわけがない、とロニも思った。
「いやー、ちょっと暇でよ。カイル何してるかなーと思ってな」
「で、何してるんだ?」と先ほどから謎に動き回っていた理由を聞く。
するとカイルは困ったような顔をしながらロニの様子を窺っていた。
「??どうしたカイル?」
あまりしない顔に多少驚きながら不思議そうに聞いてみる。
カイルは「うーん」と悩んだ後何かを決意したのか
「よし、聞いてみよう」と独り言を呟いた。
「ねーロニ?」
「ん?何だよカイル?」
どうやら聞きたい事があったらしい。
カイルは「うーんと」と一区切りつけた後首を傾げながら質問をする。
「さっき宿屋にいたカップルが言っていたんだけどさー…姫初めって何?」
「!!」
ロニはカイルの口から出た単語に驚いた。
(や、宿屋のカップルから聞いたって……いやいや、
その前に純粋なカイルからそんな言葉が出るだなんてっ……)
ロニは頭痛がしてきた。
突然頭をかかえたロニを不信そうに見やりながらもカイルは質問の答えを待っている。
そうして決意を固めたのかロニがおそるおそる聞いてみた。
「カ、カイル……それを聞いてどうするんだ?」
するとカイルはニコリと笑いこう言った。
「物凄く気になってさ。ロニなら知ってるかなーと思って」
ロニは慌てふためいた。
(じゅ、純粋なカイルにそんなの教えたくないっ……)
だが愛しのカイルから「姫初め」という単語を聞きロニは下の方が突起してきた。(ヲイ)
「カ、カカカカカイル!?し、知りたいのか!?」
「うん、オレは初めて聞くからさー。で、どんなの?」
するとロニの顔は見る見るうちに赤くなり下の方もマッハ兄貴になった。(…。)
誘っている(本人はそのつもりはない)カイルの姿を見て我慢の限界が近付いた。
(もう駄目だ、辛抱たまらんっ!!)
ロニはゆっくりとカイルに近付くと両肩に両手を置き、目をギンギンさせながら呟いた。
「本当に知りたいんだな……?」
最終確認である。
「うん、オレ知りたい」
きっぱり言い放つカイルにロニはドキドキしながらもニヤリと笑った。
純粋なカイルはおそらくこれから何が起こるのかすら分からないだろう。
だがロニにとっては知ったこっちゃない。(外道め)
ロニの本能は爆発していた。
そして張り詰めていた糸がぷっつんと切れた。
すけべロニ降臨。
「カイル――――――――!!!」
がばり。
「え、ロ、ロニ………何……?」
ぶちゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「ギャ―――――――――――――――!!!」
その日、カイルは願い通り姫初めをロニとした。
今後ロニに質問なんかしないと決意したカイル・デュナミスであった。