Melody
「――――――」
温かいメロディが、響く。
それはいつ聴いたものだっただろうか。
思い出せないぐらい、小さな時に聴いたような気がする。
遥か昔に、聴いた歌。
ソプラノの声が、耳に残る。
優しく歌うその声が心地よくて。
ずっと聴いていたいと思うようになった。
だが物心がつく前にその声は途切れてしまった。
歌い手は歌う事をしなくなった。
……いや、違う。…歌い手は―
「……ダス、ジューダス!!」
「………っ」
意識を覚まし、目を空けた時映っていたのは太陽に輝く金色の髪。
少しはねた髪が特徴の、自分より歳の若い少年。
その青い瞳で、自分を見つめる相手は。
「……カイル」
起こしてくれた相手の名を呼ぶとカイルは心配そうにジューダスを見つめた。
「大丈夫?……顔色悪いよ?」
そう言いながらカイルはジューダスの顔をじっと覗き込む。
蒼い瞳に自分の気だるそうな姿が映った。
ジューダスは軽く頭を押えると「平気だ」と呟き、ゆっくりと起き上がる。
どうやら自分は樹木の下で眠っていたようだ。
だがいつ樹木の下に行ったのだろうか、などと思ってると
ジューダスの訝しげに辺りを見渡す表情でカイルが悟った。
「あ、もしかして憶えてない?戦闘中に倒れたんだよ。ジューダス」
「……!戦闘中に、だと!?」
ジューダスが驚愕したように目を見開く。
カイルはその表情に多少驚きながら説明を続ける。
「え、えっと……ナナリーが『ただの寝不足だ』って言ってたから
体に異常はないはずだよ。念のためにリアラにヒールかけてもらったし」
「………そうか」
そう呟いた後ジューダスはカイルに向かって黙礼する。
「……すまなかったな。迷惑をかけて」
突然謝りだしたジューダスに驚き、カイルは挙動不振に手を振る。
「えっ!?い、いや大丈夫だよ…。
それよりオレはジューダスの体に異常がなくて良かった…」
そう呟いたカイルの目は潤んでいた。
おそらく本気で自分の事を心配してくれたのだろう。
カイルの優しさにジューダスは心の中で深く感謝した。
「……そういえば他の奴等は?」
ジューダスは辺りを見渡しながらカイルに問い掛ける。
「リアラとナナリーは向こうでお茶作ってるよ。
ジューダスが起きた時に飲ませてあげたいんだって。
ロニとハロルドは近くの街に行って宿屋で予約とってくるって。
本当はジューダスを運んで行ければ良かったんだけど……」
「………別に悪い病気でもないんだ。わざわざ運んで街まで行く必要はないだろう?」
ジューダスがそう冷静に呟くとカイルは「そうだけど……」と小さな声で呟いた。
自分を見つめる目は「本当に大丈夫?」と訴えかけている。
(……心配性なのは、あいつに似たのか……?)
カイルの顔を見つめながらジューダスはふとそんな事を思ってしまう。
自分がリオンとして旅をしていた頃、スタンは色々と余計なお世話をかいたものだが。
おそらく遺伝だろうな…などと思いつつジューダスはなるべくいつものように口を開いた。
「……平気だと言ってるんだ。今なら戦闘が起きても参加できるはずだ。」
「で、でも、もしかしたらまた倒れちゃうかもしれないし……」
「平気だと言っている」
「………。」
はっきりそう言われカイルは口を閉じるしかなかった。
カイルの心配性は今に始まった事ではないが今日のはおかしすぎる。
自分に気を使いすぎだと、思う。
(………あいつの事で、心配してくれているのは分かるが……)
余計なお世話だ、と心の中で呟こうとしたがどうもそんな気にはなれなかった。
それはおそらくあいつの事を思い出したからだ。
産まれた頃から傍にいていつも自分を支えてくれた相手。
ソーディアン・シャルティエ。
それがあいつの名前。
シャルティエは18年前に遡り、神の目を砕く時に別れてしまった。
世界を救うためには、シャルティエを使うしかなかったのだ。
だからジューダスは後悔などしていない。
世界を救うためには、それしかなかったのだから。
だが、後悔はしていないが。
それでも寂しいものだ。いつも傍にいたはずのものがないのは。
夜、ふと目を覚ましてシャルティエの姿を探してしまう。
いないと分かっていながら、それでも辺りを手探りしてしまう。
かけがえの無い大切なものだったのだ、彼は。
おそらく寝不足の理由はそういった行動で疲れが溜まっていたからであろう。
それが分かっているからこそカイルは心配なのだろう。
気遣いは有難い。だが今は放っておいて欲しい。
シャルティエの事を思い出すと刺が刺さったかのような痛みを覚えるから。
「………あ、ジューダス。目が覚めたのね」
思いをめぐらせているとふと少し離れた場所から歩み寄る音と声が聞こえた。
それはカップを両手に持ったリアラだった。
カップからは湯気が出ている。おそらく温かい飲み物だろう。
「……ああ。ついさっきな……」
「駄目じゃないジューダス。もっと休んでなきゃ」
立っているジューダスを心配そうに見つめながらリアラは注意する。
「いや……別に平気だ。もう動ける」
「でもやっぱり心配だわ……。ちょっと座りましょうよ。お茶も入ったし、ね?」
「………」
リアラもカイルと同じようにシャルティエの事について心配をしているのだろうか。
その表情からは読み取れないがおそらく同じようなものだろう。
ジューダスは密かにため息をつくと大人しく座る事にした。
リアラは座ったジューダスにカップを手渡すと「熱いから気を付けてね」と付け足した。
黙って頷いた後ジューダスはカップに口をつけゆっくりと飲む。
お茶の酸味のきいた香りが鼻につく。
多少熱いが味の方は中々いける。ジューダスは黙ってお茶を飲み始めた。
「おかわりあるからね」
そうリアラは呟くともう1つのカップをカイルに手渡した。
カイルは「ありがとうリアラ」と呟き、カップに息を吹きかける。
その刹那、遠くの方から声が聞こえてきた。
「リアラー!ロニとハロルドが戻ってきたよー!!」
「ナナリーの声だ」
カイルがそう呟くとリアラはナナリーの方へと駆けた。
途中、カイルとジューダスの方へ向き「2人にもお茶出してくるー!」と叫びながら。
カイルは笑顔で頷き、ジューダスは無反応だった。
「…………」
「…………」
途端2人っきりになり、カイルとジューダスは黙ってお茶を飲んでいた。
やがて「ぷはぁ」と親父くさい声がしたと思うとカイルがこちらに笑顔を向けながら話し掛ける。
「お茶美味しかったねジューダス」
「………ああ」
お茶を少量ずつ飲みながらジューダスはカイルの言葉にコクリと頷く。
確かにお茶は美味しかった。おそらく葉っぱが良かったのだろう。
そんな事を思いながらお茶を啜っているとカイルが黙ってジューダスを見つめていた。
「…………何だ、じろじろ見て」
視線に気が付き注意するとカイルは「ご、ごめん……」と気まずそうに顔を背けた。
だがしばらくすると自然に視線がジューダスへと戻る。
「………」
その視線は、悲痛なものだった。
(………やめてくれ)
そんな同情した目で見られる方が、ジューダスには辛かった。
リアラとナナリーが訪れるまで、2人の間には気まずい雰囲気が流れていた。
夜、カイル達一行は宿屋に来ていた。
先ほど協議した結果明日は1日中のんびりしていようとの事。
おそらくジューダスの体を気遣っての結論なのだろうが。
(……余計な心配などしなくても良いものを……)
心の中で深く、ため息を吐いた。
食事時、彼らはジューダスを気にしながら食べていた。
「もっと食べた方が良いんじゃない?」やら「体に良いよ、これ」など言いながら。
だがジューダスはすべて断っていた。
食事を少量食べるとすぐさま自分の部屋へと戻った。
これ以上あの輪の中にいたくなかったから。
そうして部屋でベットに寝転がりながら、ふと彼の事を思い出す。
(……………シャル)
1人になるとどうしても思い出してしまうのだ。
彼の事を。大切な人だった、シャルティエの事を。
「…………僕は……馬鹿か」
いなくなった人を想うという事はただの現実逃避である事は分かっているのに。
それでも思い出してしまうのだ。シャルティエの事を。
「…………」
心に酷く喪失感が溢れる。
ぽっかり穴が空いた様な感覚が、ある。
いなくなってしまったのだ、シャルティエは。
「…………シャル」
名を呟いた、刹那。
コンコン。
「………?」
部屋の扉を叩く音にジューダスはゆっくりと起き上がった。
今日は1人部屋のはずなのだが、一体何処のどいつが来たのだろう。
(……嫌な予感がする……)
仲間の中の誰かが来たとなれば「大丈夫?」などと聞かれるに違いない。
ジューダスは黙って無視を決めた。
コンコン。
再び扉を叩く音が聞こえる。
「…………」
さっさと立ち去れ、と心の中で呟くとジューダスはそのままドサリと寝転がった。
コンコン。
「………」
三度、扉を叩く音が聞こえる。
しつこい奴だな……と思いながらシャルティエの事に思いふけようとしたその時。
ガチャ。
「あ、開いた」
なんとも呑気な声と共に、扉が勝手に開かれた。
「!!」
ジューダスは驚き、目を見張る。
扉から入ってきた相手は悪戯そうな笑みを浮かべながら悪びた様子もなく部屋へと侵入する。
その相手は……
「よう、ジューダス。元気か〜?」
「……ロニ」
ジューダスは不機嫌そうに、ロニの名を呼ぶ。
許可もなく勝手に部屋に入られたのだ。怒るのも当然である。
「?何だよジューダス。もしかして怒ってんのか?」
だがロニは理由を深く考えずにただジューダスの顔を見てありのままに質問する。
デリカシーの欠片もないロニにジューダスは深いため息を吐いた。
返答する気力もなくジューダスは黙って顔を背けた。
そして小さな声で呟く。
「………何の用だ?」
「用って……別にねーけど」
「用が無いなら帰れ。……僕は眠たいんだ」
本当は眠くなどないのだが、ロニを追い出す言い訳がこれしか思い浮かばなかった。
これならいくらあのロニでも出て行ってくれるだろう。
そう思っていた矢先。
「…じゃ、俺が子守唄でも歌ってやろうか?」
「…………は?」
思わずロニの方に顔を向け、驚きを露わにする。
視線が合うとロニは「へへ」と笑みを浮かべながら、近くにあった椅子をベットの近くに寄せる。
そして椅子に腰掛け、ジューダスの瞳を見つめながら優しく囁く。
「これでも小さい頃はチビ達に子守唄歌ってやってたんだぜ?
天使の歌声と呼ばれるほど美し〜い俺の歌声を聞けば眠気倍増だぞ」
「………いらん」
冷たくそう言い放つと、ジューダスはロニがいる方とは逆の方へ顔を向けた。
そっぽ向かれたロニは小さく苦笑した後、ジューダスの頭を優しく撫でる。
体を触れられビク、とジューダスの体が反応するがすぐさまいつものように毒舌を吐いた。
「………子供扱いするな」
「してねーよ。……ただ、心配なだけだよ」
「…………」
こいつも、カイル達と同じように心配しているのか……
そう分かった瞬間、心に鋭い痛みが走った。
刺が刺さったかのような痛み。
シャルティエを思い出す時とは違った痛みがジューダスを襲った。
黙っているジューダスの頭を優しく撫でながら、ロニは呟く。
「……少しだけかもしんねーけど……分かるんだ、大切な人を失った痛みってやつが……。
俺も小さい頃大切な人を……スタンさんを失った事があるから……」
昔の仲間の名前にジューダスの耳がピク、と動いた。
天地戦争時代に遡った時のとある一夜、カイルからスタンの事を聞いた。
バルバトスに殺された。それを俺は思い出したんだ―と言っていた。
その時、ジューダスは動揺した。
『あのスタンが、死んだ………?』
いつも明るく、時にリオンの能力すら上回るほど強かったあいつが。
エルレインによって蘇ったあの英雄を殺す事に命をかけていた戦闘狂のあいつに。
殺されたと、いうのか。
「…………」
あの時、震えながら語るカイルをジューダスは慰める事なくただ黙って見つめていた。
さすがに驚きは隠せなかったが、殺された瞬間を見ていない分
現場を目の当たりにし、忘れたいほど辛い思いをしたカイルの前では何も言えなかった。
だから、スタンがどうやって死んだのかは詳しい事はよく分からない。
カイルの心の傷を考えるとどうしても聞いてはいけない事だと思ったから。
だからその現場にロニがいたというのも今知った。
「………」
ジューダスは黙ってロニの方へ振り返った。
少し目元を潤ませながら自分に優しく微笑みかけるロニを見て、思う。
(……よほど、辛い出来事として心に残っているのだろうな……)
ロニの悲痛な笑みを見て、察する。
自分達のように決めて別れてなどいないロニの方が深く傷ついているのではないだろうか。
だがジューダスはロニに同情など出来なかった。
不自然な同情こそ、要らないものだと思っているから。
だからジューダスは黙ってロニを見つめた。
彼が口を開くのを待ちながら。
「…俺もさ、お前のようにしばらく寝られなかったな。目を閉じたら…スタンさんの最後の姿
が見えて……。俺の所為で死んだスタンさんの姿が……浮かんで……」
ロニは途中、涙声になりながらも必死で涙を流すのを耐えた。
そんなロニを見てもジューダスはやはり無言で彼を見つめていた。
「……でもよ、そんな時ルーティさんが……俺達の母親が歌ってくれたんだよ、子守唄を。」
「―――――」
ロニの口から出た人物の名にジューダスは息をのむ。
ルーティ・カトレット。今この世に生きている唯一の肉親。
神の目を巡る騒乱の際、自分が彼女の弟だと明かした。
その時の彼女の驚きようは今でも覚えている。
だがどうしても死ぬ前に言いたかったのだ。
自分の事を憶えて欲しかったから。
ジューダスは驚きを隠せぬ様子でロニを見つめた。
だがジューダスの豹変ぶりには気がつかず、ロニは再び言葉を続けた。
「素敵な子守唄だったぜ…。綺麗な声で、俺の手を優しく握りながら歌ってくれたんだ。
その子守唄でやっとオレは安心して寝れたんだ。
……ルーティさんの優しさに、包まれたみたいに…」
「…………」
自分の姉の姿を思い浮かべながらジューダスは黙って目を閉じる。
いつも捻くれた様子を見せる彼女が本当はとても優しい事をジューダスは知っている。
一緒に旅をしていて気が付いたのだ、その事に。
彼女の優しさを知っているからこそ、ジューダスはロニが安心して眠れたのが納得できる。
ロニは遠くを見つめながら、夢見心地で呟いた。
「……それからずっと孤児院のチビ達には俺が子守唄を歌ってやったな……
ルーティさんのように上手くは歌えないけどよ。…それでもオレの歌声で安心して眠る
チビ達を見て…自然と安堵したんだ。俺にも誰かを安心させる事が出来るんだな…ってな」
最後の方は照れくさそうに頭をかきながら、ロニは照れくさそうに笑った。
その顔に先ほどのような悲痛な表情はない。
ロニはもう乗り越えたのだろう。
大切な人を失った事の辛さを。
「…………」
今の自分には出来ない事をやりのけたロニをジューダスは心底羨ましいと思った。
寂しさとは、時が解決してくれるものなのだろうか。
刺が刺さるような痛みは、いつかは消えてなくなるものなのだろうか。
(………分からない)
ジューダスには分からなかった。
悲しみを乗り越えた先に何があるのか、ジューダスには分からなかった。
だけど。
ロニの心の傷を見つめて、触れて、分かった事がある。
(………このまま立ち止まっていても、仕方が無い、という事か………)
前に進む事を選んだロニを見やりながらジューダスはふと思う。
これ以上仲間達を心配させるわけにはいかない。
ジューダスはシャルティエがいた頃のように自然に降るまえるようにと、願った。
「………ロニ」
「…ん?何だ?」
やっと口を開いた相手を見やりながら、ロニは微笑みを浮かべる。
ロニと目が合い「……あ」と一瞬躊躇う素振りを見せたものの、ジューダスは意を決して呟いた。
「………って……いか?」
聞き取れないぐらい小さな声で、ジューダスは呟いた。
「?悪ぃ、今聞こえなかったんだけど……何か言ったか?」
「……だから……歌ってくれないか……と言ったんだ」
そう恥ずかしそうに呟くジューダスの表情は普段より柔らかい感じがした。
歳相応の照れを見せたジューダスを見つめ、ロニは「ぷっ」と微笑する。
その微笑がはっきりと聞こえジューダスは眉を顰めた。
「あ、いやいや、お前から頼むなんて珍しいなーと思ってだな。決して可笑しかったわけじゃ…」
最後の方はジューダスの剣の切っ先が喉付近に近付いていて、
とてもじゃないが言葉を続けられなかった。
ジューダスは「ふん」と呟くと剣を置き、ゆっくりと仮面を取り外した。
「………!」
仮面を取り外したジューダスを見つめ、ロニは驚く。
そんなロニを気だるそうに見つめながらジューダスは再びベットに横になる。
「……僕が仮面を取るのが可笑しいか?」
「…あ、いや。別にそーいうわけじゃねーけど……前は寝る時でも付けてたじゃねーか」
「1人部屋なんだ。…外したって別に構わないだろう?」
「……ま、確かにそうだな…」
そう言った後、ロニは物珍しいものを見つめるような視線でジューダスの顔をじっくりと眺めた。
「…………さっさと自慢の美声でも披露したらどうだ?」
やがて視線に耐えられなくなったジューダスがロニに子守唄を歌うのを促す。
ロニは「ああ、そうだったな」と呑気に言うと咳で喉の調子を整えた後、
ジューダスの方を見ながら訳の分からない説明つきで盛り上げる。
「1番、ロニ・デュナミス。歌いさせていただきます。ヒューヒュー!パチパチパチ〜」
「………」
1人でやっていてつまらなくないのか、そうツッコミを入れようとしたその時。
「――――――――――――」
優しいメロディが、部屋に響いた。
(………これは)
ジューダスは驚きを露わにしながら黙ってロニを見つめる。
ロニは目を閉じ、美しいハーモニーを口ずさむ。
何故こいつがこの子守唄を知っているのだろう―そう思った。
今ロニが歌っている子守唄は小さい頃聞いたことのあるものだった。
それは確か―自分の母親が泣くエミリオを宥めるために歌った子守唄。
母親がまだ生きていた頃、本当に小さかった自分が聞いた事のある歌。
この子守唄の話をシャルティエにした所「坊ちゃんのお母さんが歌ってたんですよ」と言っていた。
そしてシャルもまた、自分が眠れない時この子守唄を歌ってくれたものだが。
(……そうか、ルーティのやつも……)
きっとこの子守唄を聞いて憶えていたに違いない、そう思った。
こんな所で繋がってるのだな……と思うと自然と喜びがこみ上げる。
ジューダスは温かい笑みを浮かべながら、ロニの歌声を聞いていた。
ロニの歌声は母親やシャルのものとは違うが、自然と落ち着く事の出来る歌声だった。
優しくて、温かい歌声。
天使の歌声までとはいかないが、下手ではない。
何となく、デュナミス孤児院の子供達が安心して寝付けるのも分かる気がした。
落ち着くのだ。ロニの歌声は。
やがて子守唄を聴いているうちに段々と瞼が重くなってきた。
おそらく寝不足だった事と歌声の所為だろう。
眠る事が億劫だった自分の瞼が自然と閉じる。
意識が眠りへと付く前、ふと頭に暖かい温もりを感じた。
それは一体何だったのかは分からなかったが、自然と安堵感を憶えた。
その温もりはジューダスの頭を優しく撫でると優しくこう囁いた。
「おやすみ、ジューダス……」
意識が途切れる前に聞いたその声は、とても優しかった。
ジューダスは温かい温もりを噛み締めながら、ゆっくりと眠りについた…。